【世界の偉人⑥】フォン・ノイマン — 万能の天才が作った期待効用理論とゲーム理論
📅 2026年9月20日 公開
連載「世界の偉人たち」第6回。今回の人物は、一つの分野に収まりません。コンピュータの基本設計、ゲーム理論の創始、量子力学の数学的基礎、そして期待効用理論の公理化——20世紀最大の天才と呼ばれるジョン・フォン・ノイマンです。KKTでは投資理論と経済の両方に、彼の仕事が土台として埋め込まれています。
生涯 — 「人間のふりをした悪魔」
ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann, 1903-1957)はブダペストの裕福な銀行家の家に生まれました。幼少期から桁外れの記憶力と計算力を示し、10代で数学者として論文を発表。ドイツで学んだ後、ナチスの台頭を受けて渡米し、プリンストン高等研究所の教授となります(アインシュタインと同僚でした)。
同僚たちは彼の頭の速さを畏れ、「人間のふりをした悪魔」「彼だけが完全に目覚めていて、我々は皆その夢の中にいる」といった言葉で評したと伝えられます。第二次大戦中はマンハッタン計画に関与し、戦後は初期の電子計算機の設計に携わりました。現代のコンピュータの基本構造(プログラム内蔵方式)が「ノイマン型」と呼ばれるのは彼の名にちなみます。
1944年『ゲームの理論と経済行動』— 2つの分野が生まれた
経済学者オスカー・モルゲンシュテルンとの共著『ゲームの理論と経済行動』(1944年)は、それ自体が2つの学問分野を生み出した書物です。
① ゲーム理論の創始
複数の主体が互いの行動を読み合いながら意思決定する状況を、数学的に分析する枠組みを打ち立てました。ゼロサム2人ゲームにおけるミニマックス定理(自分の最悪の結果を最善にする戦略の存在)は、その中心的な成果です。この土台の上に、後の囚人のジレンマやナッシュ均衡(次回の偉人伝で扱います)が築かれました。
② 期待効用理論の公理化
そしてKKTの投資理論にとって決定的なのがこちらです。ダニエル・ベルヌーイは1738年に「人は金額でなく効用で判断する」という洞察を示しました。しかしそれは「そう考えるとうまく説明できる」という提案であって、なぜ効用関数で表現してよいのかという根拠は示されていませんでした。
フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンは、この問いに答えます。人の選好がいくつかの自然な条件(公理)を満たすならば、その選好は必ず「期待効用の大小」として表現できることを証明したのです。
選好が次のような性質を満たすとする(表現は文献により異なります)——
・完備性: どの2つの選択肢も比較できる
・推移性: A≻B かつ B≻C なら A≻C(矛盾した好みを持たない)
・連続性: 選好が滑らかに変化する
・独立性: 無関係な選択肢を同じ割合で混ぜても、好みの順序は変わらない
このとき、ある効用関数 \(u\) が存在して、「くじAをBより好む ⟺ \(E[u(A)] > E[u(B)]\)」 が成り立つ。
つまり 期待効用最大化は、合理的な選好の必然的な帰結だと示されたのです。
KKTへのつながり
この定理があるからこそ、投資理論は安心して効用関数から出発できます。期待効用と確実等価額も、ジェンセンの不等式によるリスク回避の表現も、その先のポートフォリオ理論やCAPMも、すべて「投資家は期待効用を最大化する」という前提の上に立っています。その前提に数学的な正当性を与えたのがVNM定理です。
なお、この公理のうち独立性は、後に現実の人間の行動と食い違う例(アレのパラドックスなど)が指摘され、行動経済学が生まれる契機になりました。2025年度施行の教育シラバスでKKTの参考文献に『行動経済学』が加わったのは、この系譜の延長線上にあります。理論の完成が、次の理論の出発点になる——学問の進み方そのものです。
まとめ
コンピュータの設計者が、投資理論の土台も作った。フォン・ノイマンの仕事は、「意思決定を数学の対象にする」という一点で一貫しています。効用関数の問題を解くとき、その背後に彼の公理があることを思い出してください。
次回の偉人伝は、そのゲーム理論を大きく前進させ、映画『ビューティフル・マインド』の主人公にもなったジョン・ナッシュです。
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📚 参考文献・参考リンク
- Wikipedia「ジョン・フォン・ノイマン」
- 小林孝雄・芹田敏夫『新・証券投資論Ⅰ 理論篇』日本経済新聞出版