資本市場線と証券市場線 — 似て非なる2本の直線を区別する
📅 2026年9月19日 公開
名前も式も似ている2本の直線
資本市場線(CML)と証券市場線(SML)。どちらも「無リスク金利を切片とする右上がりの直線」で、混同する受験生が非常に多い論点です。しかし横軸が違い、乗る対象が違い、意味が違います。ここを1回で整理してしまいましょう。投資理論の各大問末尾に付く理論正誤問題で、繰り返し狙われるポイントです。
まず結論 — 対照表
| 資本市場線(CML) | 証券市場線(SML) | |
|---|---|---|
| 横軸 | 標準偏差 σ(トータルリスク) | β(市場リスクのみ) |
| 式 | \(E[R_p] = r_f + \dfrac{E[R_M]-r_f}{\sigma_M}\,\sigma_p\) | \(E[R_i] = r_f + \beta_i\left(E[R_M]-r_f\right)\) |
| 傾きの意味 | シャープ・レシオ(リスク1単位あたりの超過リターン) | 市場リスクプレミアム |
| 線上に乗るもの | 効率的ポートフォリオだけ(安全資産と接点ポートフォリオの組み合わせ) | すべての資産・ポートフォリオ(均衡状態において) |
| 個別銘柄は | 原則としてCMLの下方にある | SML上にある |
なぜ個別銘柄はCMLに乗らないのか
ここが理解の核心です。個別銘柄は分散投資で消せる個別リスクを抱えています。CMLの横軸はトータルリスク(=市場リスク+個別リスク)なので、個別銘柄は「消せるリスクの分だけ横に押し出され」、同じリターンならCMLより右側=線の下方に位置します。
一方SMLの横軸はβ、つまり市場リスクだけを測っています。個別リスクは報酬の対象ではないので座標に反映されず、均衡ではすべての資産がSML上に並びます。
CMLは「効率的な運用の到達点」を示し、SMLは「あらゆる資産の値付けルール」を示す。
だから、非効率なポートフォリオはCMLの下方にあるが、SML上にはある——この一文が言えれば正誤問題は落としません。
数値例で確かめる
無リスク金利 \(r_f = 1\%\)、市場ポートフォリオの期待リターン7%・標準偏差12%とします。
CMLの傾き(シャープ・レシオ)= \((7-1)/12 = 0.5\)。よって標準偏差18%の効率的ポートフォリオの期待リターンは \(1 + 0.5\times18 = 10\%\)。
ある個別銘柄X: β = 1.0、標準偏差 = 25%(個別リスクを多く含む)とします。
- SMLによる期待リターン: \(1 + 1.0\times(7-1) = 7\%\)
- もしCML上にあるなら: \(1 + 0.5\times25 = 13.5\%\) のはず
実際の期待リターンは7%であり、13.5%には遠く及びません。標準偏差25%を負っているのに、報われているのはβ=1.0分の6%だけ。差の部分が「分散投資で消せたのに消さなかった」個別リスクへの、報酬なきリスク負担です。この銘柄はCMLの下方に位置します。
SMLからの乖離 — ジェンセンのα
SMLは「均衡ならこの期待リターンになるはず」という理論値です。実際のリターンがこれを上回った分がジェンセンのαで、運用成績の評価指標として使われます。
$$\alpha_i = R_i - \left[ r_f + \beta_i (R_M - r_f) \right]$$
α > 0 なら、βで説明される以上のリターンを上げた(=SMLより上にプロットされる)ことを意味します。CAPMが正しければ均衡でαはゼロになるはずで、持続的に正のαが観測されることは市場の非効率性や、CAPMでは捉えきれない要因の存在を示唆します。
関連指標の使い分け
| 指標 | 定義 | リスクの測り方 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| シャープ・レシオ | \(\dfrac{R_p - r_f}{\sigma_p}\) | 標準偏差 | 資産全体を1本で運用する場合の比較 |
| トレイナー比 | \(\dfrac{R_p - r_f}{\beta_p}\) | β | 分散されたポートフォリオの一部として組み入れる場合 |
| ジェンセンのα | 実績 − SML理論値 | β | 超過収益の絶対額を見る |
「すでに十分分散された資産の一部」として評価するならβベース(トレイナー・α)、「これ1本で運用する」ならトータルリスクベース(シャープ)——この使い分けが問われます。
学習への落とし込み
CMLは理論編 第2章、SMLは第3章で扱います。2本の直線を自分で描き、横軸のラベルを書き分けられるようにしておけば、この論点は完成です。明日は偉人伝、フォン・ノイマンをお届けします。
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📚 参考文献・参考リンク
- 小林孝雄・芹田敏夫『新・証券投資論Ⅰ 理論篇』日本経済新聞出版
- Wikipedia「資本資産価格モデル」