囚人のジレンマ — 「裏切り」が合理的になってしまう構造
📅 2026年9月18日 公開
全員が賢く選ぶと、全員が損をする
ゲーム理論の入口にして、最も有名な問題——囚人のジレンマ。KKTの経済分野でゲーム理論は頻出テーマの一つであり、その基礎となる考え方です。まずは古典的な設定から。
共犯とみられる2人の容疑者A・Bが別々に取り調べを受けています。それぞれに司法取引が持ちかけられます。
- 2人とも黙秘 → 証拠不十分でともに懲役2年
- 1人だけ自白 → 自白した側は釈放(0年)、黙秘した側は懲役10年
- 2人とも自白 → ともに懲役5年
相手の出方は分かりません。あなたがAなら、どうしますか。
利得表で考える
刑期は短いほど良いので、マイナスの利得として表にします(左がA、右がBの利得)。
| B: 黙秘 | B: 自白 | |
|---|---|---|
| A: 黙秘 | (−2, −2) | (−10, 0) |
| A: 自白 | (0, −10) | (−5, −5) |
Aの立場で考えます。
- Bが黙秘するなら → 自分は黙秘で−2、自白で0。自白が得
- Bが自白するなら → 自分は黙秘で−10、自白で−5。やはり自白が得
相手が何をしようと自白が有利。これを支配戦略(他のどの戦略よりも常に良い結果をもたらす戦略)と呼びます。Bも対称なので同じ結論に至り、2人とも自白して(−5, −5) に落ち着きます。
しかし2人とも黙秘していれば (−2, −2) でした。個々の合理的な選択が、全員にとってより悪い結果を生む——これが「ジレンマ」と呼ばれる理由です。
ナッシュ均衡との関係
(自白, 自白) はナッシュ均衡です。ナッシュ均衡とは「相手の戦略を所与としたとき、どちらも自分だけ戦略を変える動機がない状態」のこと。この組み合わせから、Aだけが黙秘に変えると−5から−10に悪化するので変えません。Bも同様です。
一方 (黙秘, 黙秘) は、両者にとってより望ましい(パレート優位な)結果ですが、ナッシュ均衡ではありません。相手が黙秘しているなら、自分だけ自白すれば0になるからです。この裏切りの誘因があるために、協力は安定しません。
・支配戦略: 相手が何をしても最善の戦略。存在すれば必ずそれを選ぶ
・支配戦略均衡: 全員が支配戦略を持つ場合の均衡。囚人のジレンマがこれ
・ナッシュ均衡: 誰も単独では戦略を変えたくない状態。支配戦略均衡は必ずナッシュ均衡だが、逆は成り立たない
この包含関係が正誤問題で問われます。
現実の囚人のジレンマ
この構造は、刑務所の外にあふれています。
- 価格競争: 両社が高値を維持すれば双方儲かるのに、抜け駆けの値下げが有利なため値下げ合戦になる
- 環境問題: 全員が排出を抑えれば全員が得をするが、個々には抑制コストを払わないほうが得
- 広告競争: 双方が広告費を抑えれば利益は増えるが、相手が抑えるなら自社は増やしたい
- 軍拡競争: 冷戦期の核軍拡はこの構造の典型例として語られます
ジレンマから抜け出す方法
では協力は不可能なのか。カギは「ゲームが一度きりかどうか」です。
同じ相手と何度も対戦する繰り返しゲームでは、今回裏切ると次回以降に報復されます。将来の損失を織り込むと、協力を続けるほうが有利になり得る——この可能性を示すのがトリガー戦略やしっぺ返し戦略です。当サイトの過去問10年分析では、近年この発展形の比重が高まっている傾向がうかがえます。
ほかにも、拘束力のある契約や規制(外部からルールを課す)、評判メカニズム(裏切りが第三者に知られる)などが協力を支えます。「制度設計によってジレンマを解消する」という発想は、経済学の実践的な貢献の一つです。
学習への落とし込み
囚人のジレンマは経済 第5章 ゲーム理論と戦略的行動の出発点です。ここから混合戦略、逐次ゲーム(バックワードインダクション)、繰り返しゲームへと発展します。ゲーム理論の演習を深めたい方には、合格体験談でも挙げられていた『ゲーム理論ワークブック』(有斐閣)が補助教材になります。明日は投資理論の「資本市場線と証券市場線」です。
📖 あわせて学ぶ(無料講義・動画)
📚 参考文献・参考リンク
- 伊藤元重『入門経済学』第4版、日本評論社
- Wikipedia「囚人のジレンマ」