新・教育シラバスを読み解く① — アクチュアリー会は資格試験をどう変えようとしているのか
📅 2026年8月25日 公開
試験改革の「設計図」は、すでに公開されている
2027年度からKKTが2科目に分割される——この試験制度改正の話は試験ガイドで紹介しましたが、実はこの改正には「設計図」にあたる文書が存在します。日本アクチュアリー会が2024年3月28日に公表し、2025年度から施行されている「教育シラバス」です。今回と次回の2回に分けて、この一次資料を読み解きます。試験がどこへ向かうのかを知ることは、そのまま学習戦略に直結するからです。
教育シラバスとは何か
公表資料によれば、教育シラバスは「正会員の資格を得る者に求められる、アクチュアリーの専門職としての職務遂行上必要な一定水準以上の知識・技能を定める」ものです。つまり「試験に何を出すか」のリストである前に、「アクチュアリーとは何を知っているべき専門職なのか」という定義書なのです。
改定の背景として、アクチュアリー会は「急速に変化する社会経済情勢のなか、アクチュアリーに求められる専門的知識・技術も高度化・多様化している」ことを挙げています。知識・技能を明確化し、環境変化に対応して専門職としての能力維持向上を図る——これが公式に説明された狙いです。
科目構成に現れた「新しい顔ぶれ」
シラバスとあわせて公開された「学習の参考となる書籍等」(2024年3月26日時点)を見ると、知識領域の並びに従来の試験科目(数学・生保数理・損保数理・年金数理・会計・経済・投資理論)にはなかった名前が登場します。
| 新しい知識領域 | 公式参考文献リストの内容 |
|---|---|
| データとシステム | 『入門 Rによる予測モデリング』(東京図書) |
| 金融システム | 『経済主体の日本金融論』(国際書院) |
| アクチュアリアル・リスクマネジメント | アクチュアリー会テキストのリスク管理章、『保険ERM経営の理論と実践』(きんざい) |
| プロフェッショナリズム | アクチュアリー行動規範・行動基準 |
この中の「金融システム」と「アクチュアリアル・リスクマネジメント」が、2027年度の新試験科目(「会計・経済・金融システム」「リスクマネジメント・投資理論」)の名前にそのまま現れていることに注目してください。2026年4月に発表された試験制度改正は突然の出来事ではなく、2024年のシラバスで予告されていた知識体系の再編を、試験の形に落とし込んだものなのです。
シラバスのKKT領域、参考書籍にも変化が起きていた
もう一つ見逃せないのは、教育シラバスに添付された「学習の参考となる書籍等」のうち、現行KKT(会計・経済・投資理論)に対応する領域の変化です。従来の指定教科書4冊(『財務会計講義』『入門経済学』『新・証券投資論Ⅰ・Ⅱ』)に加えて、次のような文献が並んでいます。これはあくまでシラバス上の参考書籍リストであり、現行1次試験の出題範囲を定める資格試験要領の指定教科書が増えたわけではありません。それでも、アクチュアリー会が重視し始めた学習領域を読み取る手がかりとしては見逃せません。
- 『行動経済学』大垣昌夫・田中沙織(有斐閣) — 伝統的経済学と行動経済学の統合を掲げるテキスト
- 『モンテカルロ法の金融工学への応用』(朝倉書店)— 数値計算・シミュレーションの実務書
- 金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」 — ESG開示の公式資料
- 国税庁「税法入門」・財務省の財政資料 — 税と財政の公的資料
行動経済学、シミュレーション、サステナビリティ開示、税・財政——いずれも従来の試験勉強の範囲では正面から扱われてこなかったテーマです。アクチュアリーの知識像が「保険数理の専門家」から「金融・経済・リスクを横断する専門職」へ広がっていることが、参考文献の顔ぶれからはっきり読み取れます。
次回: 新科目の中身と参考書を先取りする
では、2027年度から登場する「金融システム」と「アクチュアリアル・リスクマネジメント」では、具体的に何を学ぶことになるのか。公式参考文献に挙げられた書籍から、その輪郭を先取りできます。次回は新科目の中身と参考書、そして2026年度受験生が取るべき戦略を掘り下げます。
※ 厳密に言えば(補注)
- 経済分野の指定教科書の正式な書名は『入門 経済学』(伊藤元重、日本評論社)です。本文では慣用的に『入門経済学』と表記しています。
- 教育シラバスは試験科目や出題方法そのものを決定する文書ではありません。「予告されていた」は、後の試験制度改正と整合的な知識体系が2024年時点で先行して示されていた、という趣旨です。
- 2027年度の新科目名は「リスクマネジメント・投資理論」であり、「アクチュアリアル」の語は付きません。「名前にそのまま現れている」のうち、金融システムは文字どおり一致、リスクマネジメントは対応する領域名として反映されている、という関係です。
- 参考文献にサステナビリティ開示資料が掲載されたこと自体が、当該テーマの出題の継続・拡大を保証するわけではありません。「制度としての方向性」は、学習領域として公式文書に位置付けられたという意味で用いています。
- 従来の試験科目にも会計・経済・投資理論など保険数理以外の領域は含まれていました。「知識像が広がっている」は、データとシステム・金融システム・リスクマネジメントといった領域がより明示的に位置付けられた、という趣旨です。
- 教育シラバスの施行は、各年度の出題範囲・指定教科書の変更を直ちに意味するものではありません。実際の出題範囲は各年度の資格試験要領で確認してください。
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