新・教育シラバスを読み解く② — 新科目「金融システム」「アクチュアリアル・リスクマネジメント」と公式参考書
📅 2026年8月26日 公開
前回、2025年度施行の教育シラバスが試験改革の「設計図」であることを見ました。今回はその中心にある2つの新領域——「金融システム」と「アクチュアリアル・リスクマネジメント」——の中身を、公式参考文献リスト(2024年3月26日時点)から先取りします。2027年度の新試験科目「会計・経済・金融システム」「リスクマネジメント・投資理論」の名前に組み込まれた、まさにその2つです。
新領域① 金融システム — 「市場と機関のしくみ」を学ぶ
公式参考文献に挙げられているのは、高橋智彦『経済主体の日本金融論』(国際書院)です。書名にある「経済主体」——家計・企業・政府・金融機関——の視点から日本の金融の仕組みを扱う金融論のテキストで、ここから読み取れる新領域の輪郭は、銀行・保険・年金といった金融機関が経済の中で果たす役割、資金の流れ、金融市場と規制の仕組みといった「金融の制度と構造」の理解です。
現行KKTの経済(ミクロ・マクロの理論)と投資理論(資産価格の理論)の間には、実は「現実の金融システムがどう組み立てられているか」という制度面の空白がありました。保険会社という巨大な機関投資家で働くアクチュアリーにとって、この空白を埋める知識が正面から問われるようになる——2027年度に「会計・経済・金融システム」という科目名になるのは、その表れと読めます。
新領域② アクチュアリアル・リスクマネジメント — 「守りの数理」を学ぶ
こちらの公式参考文献は次の3点です。
- アクチュアリー会テキスト『保険2(生命保険)』第4章 リスク管理
- アクチュアリー会テキスト『損保』第10章 リスク管理
- 損害保険事業総合研究所 編『保険ERM経営の理論と実践』(きんざい)
キーワードはERM(Enterprise Risk Management: 統合的リスク管理)です。保険会社が引き受けるリスクを全社的に把握・計測し、資本と対応させて経営判断につなげる枠組みで、ソルベンシー規制とも直結する、現代の保険経営の中核テーマです。これまで2次試験や実務の領域だったリスク管理の考え方が、1次試験レベルの必修知識に降りてくる——これがこの新領域の意味だと言えます。従来のKKTでいえば投資理論のリスク計測(分散・VaR)に接続する内容で、新科目名「リスクマネジメント・投資理論」という組み合わせは自然な再編です。
2026年度受験生への結論 — 「今年のKKT」が最も安い
新領域の中身を知ると、あらためて確認できることがあります。2027年度以降にこの範囲を受験する場合、従来のKKTの範囲に加えて、金融システムとリスクマネジメントという新しい学習が上乗せされるということです。一方、2026年度にKKTに合格すれば、所定の研修受講により新2科目に相当するとみなされる経過措置があります(詳細は試験ガイド)。
| 2026年度に合格する場合 | 2027年度以降に受験する場合 | |
|---|---|---|
| 試験 | KKT 1科目 | 新2科目を別々に受験 |
| 学習範囲 | 会計・経済・投資理論 | 左記+金融システム+リスクマネジメント |
| 教科書 | 指定4冊+対策書 | 新領域の文献(金融論・ERM)が追加見込み |
将来のアクチュアリーにとって金融システムもERMも重要な知識であることは間違いありません。ただ「試験としての通過コスト」は、今年が最も小さい——これは制度の構造から言える事実です。
新科目が気になる人への読書案内
2027年度以降の受験を見据える方、あるいは実務的な関心から新領域を先取りしたい方は、公式参考文献の2冊——『経済主体の日本金融論』(国際書院)と『保険ERM経営の理論と実践』(きんざい)——が出発点になります。ただし、実際に各年度の試験で教科書指定される文献は資格試験要綱で確定するとアクチュアリー会自身が注記している点にご注意ください。参考文献リストは「学習の参考」であり、最終的な試験範囲の確定は要綱を待つ必要があります。本サイトでも新制度の詳細が発表され次第、対応するコンテンツを整備していく予定です。
まずは目の前の2026年度。無料講義と類題トレーニングで、「1科目で済む最後の年」を取り切りましょう。
※ 厳密に言えば(補注)
- 本文で ERM を「ソルベンシー規制とも直結する」と書きましたが、厳密には両者は別の概念です。ソルベンシー規制は資本の十分性に関する健全性規制の枠組み、ERM はそれを支える経営管理・ガバナンスの枠組みであり、「直結」は密接に関係するという趣旨で、両者が一対一に対応する意味ではありません。また ERM の対象は保険引受リスクに限らず、市場・信用・流動性・オペレーショナルリスク等も含みます。
- 「今年が最も安い」「通過コストが最も小さい」は、試験科目数(1科目か2科目か)と学習範囲の構造に着目した表現です。経過措置の適用には所定の研修(特定分野2研修)の受講修了が必要で、また新科目の難易度・受験料等は現時点で未公表のため、時間・費用を含む総コストの厳密な比較として述べたものではありません。
📖 あわせて学ぶ(無料講義・動画)
📚 参考文献・参考リンク
- 日本アクチュアリー会「学習の参考となる書籍等」(2024年3月26日時点)
- 高橋智彦『経済主体の日本金融論』国際書院(金融システムの公式参考文献)
- 損害保険事業総合研究所 編『保険ERM経営の理論と実践』きんざい(アクチュアリアル・リスクマネジメントの公式参考文献)
- 日本アクチュアリー会「資格試験制度の改正について」(2026年4月1日)