ポートフォリオの期待リターンと分散 — 分散投資の数学
📅 2026年8月29日 公開
「卵を一つのカゴに盛るな」を数式にする
分散投資が大事——それは誰でも知っています。しかし「なぜ」「どれくらい」効くのかを数字で示せるのは、ポートフォリオ理論を学んだ人だけです。今回はその出発点、2資産ポートフォリオの期待リターンと分散を数値例で完全に手の内に入れます。過去問10年分析で見たとおり、ポートフォリオ理論は毎年5点前後が固定配分され、最小分散ポートフォリオは10年で8年出題——その計算はすべてこの基礎の上に立ちます。
準備 — 2つの資産と3つのパラメータ
資産Aと資産Bに、資金を割合 \(w_A : w_B\)(\(w_A + w_B = 1\))で配分するとします。必要な材料は、各資産の期待リターン \(E[R_A], E[R_B]\)、リスク(標準偏差)\(\sigma_A, \sigma_B\)、そして両者の相関係数 \(\rho\) の3種類です。
期待リターンは単純です。配分比率での加重平均になります。
$$E[R_p] = w_A E[R_A] + w_B E[R_B]$$
分散はそうはいきません。ここがポートフォリオ理論の核心です。
$$\sigma_p^2 = w_A^2 \sigma_A^2 + w_B^2 \sigma_B^2 + 2 w_A w_B \,\rho\, \sigma_A \sigma_B$$
第3項に相関係数 \(\rho\) が入っています。リターンは配分の加重平均になるが、リスクは(相関が完全でない限り)加重平均より小さくなる——これが分散投資の効果の数学的な表現です。
数値例 — 相関係数でリスクはこう変わる
資産A: 期待リターン10%・標準偏差20%、資産B: 期待リターン4%・標準偏差10%、配分は半々(\(w_A = w_B = 0.5\))とします。期待リターンは相関に関係なく
$$E[R_p] = 0.5 \times 10\% + 0.5 \times 4\% = 7\%$$
一方、リスクは相関係数しだいで劇的に変わります。
| 相関係数 ρ | ポートフォリオの分散 | 標準偏差 | 単純平均(15%)との比較 |
|---|---|---|---|
| +1(完全に連動) | 0.0225 | 15.0% | 加重平均そのもの=分散効果ゼロ |
| +0.3 | 0.0155 | 約12.4% | 2.6ポイント減 |
| 0(無相関) | 0.0125 | 約11.2% | 3.8ポイント減 |
| −1(完全に逆連動) | 0.0025 | 5.0% | 10ポイント減。配分を1:2(A:B)に変えれば理論上ゼロにもできる |
計算例(ρ=0のとき): \(\sigma_p^2 = 0.25 \times 0.04 + 0.25 \times 0.01 + 0 = 0.0125\)、よって \(\sigma_p \approx 11.2\%\)。
期待リターンは7%のまま一歩も動いていないのに、リスクだけが相関の低さに応じて削れていく——「タダでリスクだけ減らせる」のが分散投資の魔法です。値動きの理由が異なる資産(株と債券、国内と海外)を組み合わせる意味が、この表に凝縮されています。
試験ではここまでつながる
この基礎の直接の延長線上に、試験の定番問題があります。
- 最小分散ポートフォリオ(10年で8年出題): 上の分散の式を \(w_A\) で微分してゼロと置き、リスクが最小になる配分を求める問題。2資産なら公式 \(w_A = \dfrac{\sigma_B^2 - \rho \sigma_A \sigma_B}{\sigma_A^2 + \sigma_B^2 - 2\rho\sigma_A\sigma_B}\) に帰着します
- 効率的フロンティア: 配分を動かしたときの(リスク, リターン)の軌跡から、「同じリスクなら最高のリターン」の組み合わせだけを残した曲線
- 接点ポートフォリオ・分離定理(10年で7年出題): 安全資産を加えたときの最適な危険資産の組み合わせ
学習への落とし込み
体系的な学習は投資理論 理論編 第2章 ポートフォリオ理論へ。分散の式の導出から効率的フロンティア、分離定理まで、この記事の続きを試験レベルで学べます。計算練習は類題トレーニングでどうぞ。
※ 厳密に言えば(補注)
- 本文の出題頻度・配点(毎年5点前後、最小分散8年・接点7年など)は、当サイトが実試験10年分(2016〜2025年度)を類題化したデータベースの独自集計に基づく数字です(詳細はリンク先の過去問10年分析を参照)。将来の出題構成・配点を保証するものではありません。
- 「リスクは加重平均より小さくなる」が成り立つのは、空売りをせず両資産を正の比率で保有する場合です。このとき \(\rho < 1\) なら標準偏差は加重平均 \(w_A\sigma_A + w_B\sigma_B\) より厳密に小さく、\(\rho = +1\) のときに限り加重平均と一致します。
- 最小分散ポートフォリオの公式は、\(w_A + w_B = 1\) のみを制約とする(空売りも許す)場合の解です。空売り禁止(\(0 \le w_A \le 1\))の下では、公式の値が範囲外になる場合(例: 本記事の数値例で \(\rho = +1\) なら \(w_A = -1\))、最小分散は端点(全額Aまたは全額B)で達成されます。
- 「安全資産」は、厳密には利子率が既知で分散ゼロと仮定される無リスク資産を指します。分離定理は、平均・分散アプローチの仮定の下で、投資家が共通の接点ポートフォリオと無リスク資産への配分だけを各自のリスク選好に応じて選ぶ、という内容です。
- 「タダでリスクだけ減らせる」は、各資産の期待リターン・標準偏差・配分を固定して相関係数だけを変えた理論上の比較です。実際の投資では取引費用や推定誤差などが伴い、市場ストレス時には資産間の相関が上昇することもあります。
📖 あわせて学ぶ(無料講義・動画)
📚 参考文献・参考リンク
- 小林孝雄・芹田敏夫『新・証券投資論Ⅰ 理論篇』日本経済新聞出版
- 当サイト類題データベース(2016〜2025年度・753問)の集計