3つの評価基準とDPV — 取得原価・時価・割引現在価値
📅 2026年9月11日 公開
「いくらで載せるか」問題
10年前に1億円で買った土地が、いま3億円で売れるとします。貸借対照表にはいくらで載せるべきでしょうか。1億円? 3億円?——この問いに対する答えが1つに定まらないことこそ、会計という学問の面白さであり、難しさです。
資産・負債をいくらで測るかという測定(評価)の基準には、大きく3つの考え方があります。会計理論の骨格にあたる論点なので、それぞれの長所と短所をセットで押さえましょう。
① 取得原価 — 「払った額」で測る
その資産を取得するために実際に支払った金額で測ります。伝統的な会計の基本原則で、上の例なら1億円です。
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 実際の取引に基づくため検証可能性が高い(領収書がある) 恣意的な操作が入りにくく信頼性が高い 未実現の利益を計上しない(処分可能利益の計算に適する) | 時間が経つほど現在の価値から乖離する 投資家の意思決定には情報が古い 同じ資産でも取得時期で金額が違ってしまう |
② 時価(公正価値)— 「今売ったらいくらか」で測る
決算日時点の市場価格などで測ります。上の例なら3億円。売買目的有価証券やデリバティブなど、市場が存在し価格が客観的に得られる資産で採用されます。
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 現在の経済実態を反映し、意思決定への関連性が高い 取得時期の違う同種資産を同じ基準で比較できる | 市場がない資産では見積もりに頼るため信頼性が下がる まだ売っていない(未実現の)利益が計上される 市場価格の変動で利益が乱高下する |
③ 割引現在価値(DPV)— 「将来生む価値」で測る
その資産が将来生み出すキャッシュフローを、適切な割引率で現在価値に割り引いた金額です。
$$DPV = \sum_{t=1}^{n} \frac{CF_t}{(1+r)^t}$$
たとえば毎年100万円の賃料を生み、5年後に売却する不動産なら、その将来キャッシュフローの割引現在価値で測ります。退職給付債務・資産除去債務・減損会計の使用価値など、現代の会計基準で広く使われている考え方です。
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 資産の収益力そのものを表す 市場価格がない資産にも適用できる ファイナンス理論と整合的 | 将来CFの見積もりと割引率の選択に主観が入る 前提を少し変えるだけで金額が大きく動く 検証が難しい |
3つは「どれが正しいか」ではない
重要なのは、3基準は優劣ではなく使い分けだという点です。日本の会計制度は、資産の性格に応じて基準を選ぶ混合測定を採用しています。
- 建物・機械(事業用固定資産) → 取得原価(売却が目的ではないため)
- 売買目的有価証券 → 時価(売却して利益を得るのが目的だから)
- 満期保有目的の債券 → 償却原価(満期まで持つので途中の時価変動は意味が薄い)
- 退職給付債務・資産除去債務 → 割引現在価値
この背後にあるのが、概念フレームワークで学んだ「意思決定との関連性」と「信頼性」のトレードオフです。時価は関連性が高いが信頼性に課題があり、取得原価はその逆。どちらを重視すべきかは資産の保有目的によって変わる——だから混合測定になるのです。
試験での問われ方
会計の知識問題では、3基準それぞれの長所短所、混合測定の考え方、そして「どの資産にどの基準が適用されるか」の対応が問われます。正誤問題の典型的なひっかけは「時価評価のほうが常に優れている」「取得原価主義は完全に時価主義に移行した」といった言い切り型です。トレードオフの構造を理解していれば、この手の断定は即座に切れます。
学習への落とし込み
3つの評価基準は会計 第4章 利益測定と資産評価の基礎概念で扱います。個別の資産ごとの適用は第5章以降(有価証券・固定資産・負債)で具体化されるので、まずこの総論を固めてから各論へ進むのが効率的です。明日は投資理論の「CAPMとβ」です。
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📚 参考文献・参考リンク
- 桜井久勝『財務会計講義』中央経済社
- 討議資料「財務会計の概念フレームワーク」企業会計基準委員会(2006年)