有価証券の4分類 — 保有目的で評価も損益も変わる
📅 2026年9月23日 公開
同じ株式でも、評価方法が変わる
A社の株式を100万円で買いました。決算日の時価は120万円です。20万円の含み益は利益に計上すべきでしょうか——答えは「何のために持っているかによる」です。
金融商品会計基準は、有価証券を保有目的別に4つに分類し、それぞれ異なる評価方法を定めています。3つの評価基準で見た「関連性と信頼性のトレードオフ」が、具体的な形で現れる論点です。
4分類 — 一覧で押さえる
| 分類 | 保有目的 | B/S価額 | 評価差額の処理 |
|---|---|---|---|
| ① 売買目的有価証券 | 時価変動で利益を得る(トレーディング) | 時価 | 当期の損益(有価証券評価損益) |
| ② 満期保有目的の債券 | 満期まで保有して利息と元本を得る | 取得原価(または償却原価) | 評価差額なし。金利調整差額は償却原価法で期間配分 |
| ③ 子会社株式・関連会社株式 | 支配・影響力の行使(事業投資) | 取得原価 | 評価差額なし |
| ④ その他有価証券 | 上記以外(持ち合い株式など) | 時価 | 純資産の部へ直接計上(全部純資産直入法) |
なぜこう分かれるのか — 理屈で覚える
① 売買目的 → 時価評価・損益計上
売買で利益を得るのが目的なので、時価そのものが成果です。いつでも売却でき、値上がり益は事実上実現しているとみなせるため、評価差額を当期の損益に含めます。
② 満期保有目的 → 取得原価(償却原価)
満期まで持つと決めているので、途中の時価変動は意味を持ちません(売らないのだから)。ただし、額面と取得価額の差が金利調整に相当する場合は、償却原価法で満期までの期間にわたり配分します。
③ 子会社・関連会社株式 → 取得原価
これは金融投資ではなく事業投資です。グループ会社を支配するために持っているので、時価で評価する意味がありません。
④ その他有価証券 → 時価評価だが損益は通さない
最も理解が難しいのがここです。政策的な株式持ち合いなどが該当し、「直ちに売る予定はないが、売れないわけでもない」という中間的な性格を持ちます。
そこで会計は折衷案を採ります。時価情報は有用なのでB/Sは時価で載せる。しかし売る予定がない以上、値上がり益を当期の利益にするのは適切でない。だから評価差額は損益を通さず、純資産の部に直接計上する——これがその他有価証券評価差額金です。
取得原価100万円、期末時価120万円、法定実効税率30%の場合——
借方: 投資有価証券 200,000 / 貸方: 繰延税金負債 60,000、その他有価証券評価差額金 140,000
評価差額20万円のうち、税効果分6万円を繰延税金負債とし、残り14万円を純資産に計上します。損益計算書には一切登場しないのがポイントです。
包括利益とのつながり
その他有価証券評価差額金は、純利益には含まれませんが包括利益には含まれます(その他の包括利益=OCI)。そして実際に売却したときには、それまで純資産に積み上がっていた評価差額がリサイクリングされて損益計算書に計上されます。
この構造は概念フレームワークで学んだ「投資のリスクからの解放」という考え方そのものです。売却して初めて成果が確定する=リスクから解放されるので、そのタイミングで純利益に反映させる——理論と基準がきれいに対応しています。
減損(強制評価減)にも注意
時価評価しない②③④のうち、時価が著しく下落し回復の見込みがない場合には、時価まで評価を切り下げて当期の損失として処理します(強制評価減)。「著しい下落」の目安は取得原価から50%程度以上の下落とされ、30〜50%の場合は各社の合理的な基準で判断します。時価のない株式についても、実質価額が著しく低下した場合は同様の処理が必要です。
試験での問われ方
会計の知識問題では4分類と評価方法の対応がストレートに問われ、計算問題では評価差額の金額や税効果を含む仕訳が問われます。正誤問題の典型的なひっかけは「その他有価証券の評価差額は当期の損益に計上する」(誤り。純資産へ直入)や「満期保有目的の債券は時価評価する」(誤り)といった、分類と処理の組み替えです。表を縦横に暗唱できる状態にしておきましょう。
学習への落とし込み
有価証券の分類は会計 第5章 現金預金と有価証券で、ヘッジ会計や減損とあわせて扱います。過去10年分析では有価証券・金融商品は「10年で5〜7年」の高頻度領域です。類題トレーニングで仕訳まで練習してください。
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📚 参考文献・参考リンク
- 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」企業会計基準委員会
- 桜井久勝『財務会計講義』中央経済社