ナッシュ均衡とは — 「お互いにとって最適」の見つけ方
📅 2026年9月24日 公開
「誰も動きたくない状態」を探す
囚人のジレンマで登場したナッシュ均衡を、今回は計算手順として身につけます。過去10年の実試験でゲーム理論は連続出題されており、その中心がこの概念です。
定義はシンプルです。ナッシュ均衡とは、各プレイヤーの戦略の組み合わせのうち、「相手の戦略を所与としたとき、誰も自分だけ戦略を変えることで利得を改善できない」状態。全員が「相手がそう出るなら、自分はこれがベスト」と思っている状態、と言い換えられます。
求め方 — 下線引き法(最適反応の交差)
2人×2戦略の利得表なら、次の3ステップで機械的に求まります。
- 相手の各戦略に対する自分の最適反応を探し、その利得に下線を引く
- 相手側についても同じことをする
- 両方に下線が引かれたマスがナッシュ均衡
例題: 企業AとBが「高価格」「低価格」を選ぶゲーム(左がA、右がBの利得)。
| B: 高価格 | B: 低価格 | |
|---|---|---|
| A: 高価格 | (8, 8) | (2, 10) |
| A: 低価格 | (10, 2) | (5, 5) |
- Aの最適反応: Bが高価格なら 8 vs 10 → 低価格。Bが低価格なら 2 vs 5 → 低価格
- Bの最適反応: 対称なので同じく低価格
両方に下線が引かれたのは (低価格, 低価格) = (5, 5)。これがナッシュ均衡です(構造は囚人のジレンマと同型で、(8,8) のほうが両者にとって良いのに実現しません)。
均衡は1つとは限らない
試験で問われるパターンの一つが複数均衡です。次のような「協調ゲーム」を見てください。
| B: 方式X | B: 方式Y | |
|---|---|---|
| A: 方式X | (3, 3) | (0, 0) |
| A: 方式Y | (0, 0) | (2, 2) |
(X, X) と (Y, Y) の両方がナッシュ均衡です。どちらか一方に揃えば誰も動きたくありません。規格の統一問題(どの技術標準を選ぶか)などがこの構造で、「(3,3) のほうが望ましいが、(2,2) にはまっても抜け出せない」という現象を説明します。
逆に、純戦略のナッシュ均衡が存在しないゲームもあります(じゃんけん型、ペナルティキック型)。この場合は次の混合戦略に進みます。
混合戦略のナッシュ均衡
純戦略で均衡がないときは、確率的に戦略を混ぜます。求め方の原理は「相手を無差別にする確率を選ぶ」——自分の混ぜ方によって相手のどの戦略も同じ利得になるようにする、というものです。
例: キーパーとキッカーのゲーム。キッカーが左に蹴る確率を \(p\) とし、キーパーの利得が左右で等しくなる \(p\) を求めます。
- キーパーが左に跳ぶときの期待利得 = キーパーが右に跳ぶときの期待利得
- この方程式を解いて \(p\) を求める(相手側についても同様に \(q\) を求める)
「自分の確率は、相手の無差別条件から決まる」という点が直感に反するので、ここを取り違えないよう注意してください。過去10年では2018・2020・2023年度に混合戦略が出題されています。
「利得表の一部が文字 \(a\) で与えられ、(戦略A, 戦略B) がナッシュ均衡となる \(a\) の範囲を求めよ」という形式が頻出です。手順は単純で、そのマスが均衡になる条件=両プレイヤーが単独で動く動機を持たない条件を不等式で書き下し、連立させるだけです。「均衡の定義に戻る」と決めておけば、初見でも解けます。
試験での出題パターンまとめ
- 2×2 の利得表からナッシュ均衡を求める(基本形・10年連続)
- 3人ゲーム、3戦略以上への拡張
- パラメータの範囲を求める
- 混合戦略の確率を求める
- 逐次ゲーム(先手・後手がある)→ バックワードインダクションで解く
- 繰り返しゲーム(次回のコラムで扱います)
学習への落とし込み
ナッシュ均衡は経済 第5章 ゲーム理論と戦略的行動の中心です。下線引き法を手が覚えるまで類題トレーニングで反復してください。明日は投資理論の「シャープ・レシオ」です。
📖 あわせて学ぶ(無料講義・動画)
📚 参考文献・参考リンク
- 伊藤元重『入門経済学』第4版、日本評論社
- Wikipedia「ナッシュ均衡」
- 当サイト類題データベース(2016〜2025年度・753問)の集計