簿記入門(読み物版)― 第6章

第6章 手形と電子記録債権

約束手形の振出・受取、受取手形・支払手形、手形の決済、電子記録債権・電子記録債務のしくみを解説します。

第5章では、現金や預金といった「すぐに使えるお金」のあつかいを学びました。この章のテーマは、それとは少しちがう「あとで払う・あとで受け取る」約束の記録です。会社どうしの取引では、その場で現金をやりとりせず、「〇月〇日にお支払いします」と紙に書いて約束することがよくあります。この紙が手形(てがた)です。 最近では、この約束を紙ではなく電子データでやりとりする電子記録債権(でんさい)という仕組みも広がってきました。 名前だけ聞くと少しむずかしそうですが、やることは第4章の掛け取引(売掛金・買掛金)とよく似ています。「受け取る権利は資産」「支払う義務は負債」という、これまでと同じ考え方で乗り切れますよ。ひとつずつ、ていねいに見ていきましょう。

🎯 この章でマスターしておきたいこと

📚 本章の流れ

  1. 約束手形ってなに? ―― 振出人と名宛人
  2. 手形を振り出す・受け取る ―― 支払手形と受取手形
  3. 手形の決済 ―― 支払期日にお金が動く
  4. 電子記録債権・電子記録債務(でんさい)
  5. 手形貸付金・手形借入金 ―― お金の貸し借りに使う手形
  6. 要点まとめ

1. 約束手形ってなに? ―― 振出人と名宛人

1.1 手形は「あとで払います」の約束券

手形(てがた)とは、ひとことで言えば「〇月〇日に、この金額をお支払いします」と紙に書いて約束した証券のことです。買い物をしたけれど今は手元にお金がない、というとき、その場で現金を渡すかわりにこの約束券を相手に渡します。相手は、約束された日(支払期日)になれば、そのお金を確実に受け取れる、というわけですね。

手形にはいくつか種類がありますが、本章であつかうのは約束手形(やくそくてがた)という、もっとも基本的なものです。「だれかが、だれかに、いくらを、いつ払うと約束したか」がはっきり書かれた紙、とイメージしてください。

1.2 登場人物は2人 ―― 振出人と名宛人

約束手形には、かならず2人の登場人物がいます。ここを最初に整理しておくと、このあとの仕訳がぐっと分かりやすくなります。

約束手形の仕組み。振出人(支払う側)が名宛人(受け取る側)に手形を振り出し、支払期日に当座預金から代金が支払われる流れの図
図 6-1 約束手形の仕組み。手形を「作って渡す」のが振出人(支払う側)、「受け取る」のが名宛人(受け取る側)です。支払期日になると、振出人の当座預金から代金が支払われます。

「振り出す」という言葉は聞きなれないかもしれませんが、手形を作成して相手に渡すことを「手形を振り出す」と言います。そして、振り出した人(振出人)が支払う側、というのが最大のポイントです。日常の感覚だと「振り出す=出す=もらう?」と混乱しがちなので、「振り出す人=払う人」とここでしっかり覚えてしまいましょう。

手形の学習でつまずく人のほとんどが、この「だれが払う側で、だれが受け取る側か」のところです。逆に、ここさえ押さえれば、あとは第4章の売掛金・買掛金と同じ発想でスラスラ解けます。合言葉は「振り出す人は、お金を払う人」。図6-1を何度か見返して、A社(振出人=払う)とB社(名宛人=受け取る)の関係を目に焼きつけておいてくださいね。

2. 手形を振り出す・受け取る ―― 支払手形と受取手形

登場人物が分かったので、いよいよ仕訳です。手形が動くと、払う側と受け取る側で、それぞれ別の勘定科目を使います。

2.1 使う勘定科目は2つ

売掛金(あとで受け取る権利=資産)・買掛金(あとで払う義務=負債)と、まったく同じ構造ですね。「受け取る手形は資産」「支払う手形は負債」と、名前がそのままヒントになっています。

2.2 両側の仕訳を対で見る

具体例で確かめましょう。A社はB社から商品300,000円を仕入れ、代金として約束手形を振り出して渡したという取引です。A社は「買った側=振出人=支払う側」、B社は「売った側=名宛人=受け取る側」でしたね。この1つの取引を、両社それぞれの立場から仕訳すると次のようになります。

商品売買で約束手形を使ったときの両社の仕訳。振出人A社は借方 仕入・貸方 支払手形、名宛人B社は借方 受取手形・貸方 売上
図 6-2 同じ取引を、手形を振り出したA社と、受け取ったB社の両方から仕訳したもの。片方の「支払手形」が、もう片方では「受取手形」になっているのがポイントです。

Q. A社は、B社から商品300,000円を仕入れ、代金は同額の約束手形を振り出して支払った。A社(振出人)の仕訳を書いてください。

A. A社は商品を仕入れたので、費用の仕入が発生します(借方)。代金は現金ではなく手形を振り出したので、あとで支払う義務である支払手形(負債)が増えます(貸方)。
(借)仕入 300,000 / (貸)支払手形 300,000
借方合計300,000円=貸方合計300,000円で、左右はぴったり一致しています。まだお金は1円も動いておらず、「あとで払う約束」だけが生まれた状態です。

Q. 同じ取引について、こんどはB社(名宛人)の仕訳を書いてください。B社は商品300,000円を売り上げ、代金としてA社振出の約束手形を受け取っています。

A. B社は商品を売ったので、収益の売上が発生します(貸方)。代金は手形で受け取ったので、あとで受け取る権利である受取手形(資産)が増えます(借方)。
(借)受取手形 300,000 / (貸)売上 300,000
A社の「支払手形」と、B社の「受取手形」が、同じ1枚の手形を裏表から見た関係になっていますね。ここが手形の仕訳のキモです。
仕訳を書くときは、まず「自分は払う側? 受け取る側?」を確認するクセをつけましょう。問題文に「約束手形を振り出して」とあれば自分は支払手形、「約束手形を受け取って」とあれば受取手形、と機械的に判断できます。

3. 手形の決済 ―― 支払期日にお金が動く

手形を振り出した(受け取った)時点では、まだお金は動いていません。実際にお金がやりとりされるのは、手形に書かれた支払期日(しはらいきじつ)が来たときです。この、手形の代金が実際に支払われることを決済(けっさい)といいます。

3.1 手形は当座預金で決済される

手形の決済は、ふつう当座預金を通じて行われます(当座預金は第5章で学びましたね)。支払期日になると、振出人(支払う側)の当座預金から代金が引き落とされ、名宛人(受け取る側)の当座預金に入金される、という形で自動的に処理されます。

先ほどのA社・B社の続きを見てみましょう。支払期日になり、A社が振り出した約束手形300,000円が決済されたという取引です。

支払期日に手形が決済されたときの両社の仕訳。A社は借方 支払手形・貸方 当座預金、B社は借方 当座預金・貸方 受取手形
図 6-3 手形の決済。支払う側のA社は「支払手形(負債)」が消え、当座預金が減ります。受け取る側のB社は「受取手形(資産)」が消え、当座預金が増えます。

Q. 支払期日になり、A社が以前振り出した約束手形300,000円が、当座預金から引き落とされて決済された。A社の仕訳を書いてください。

A. 手形代金を支払ったので、支払手形(負債)という義務がなくなります。負債の減少は借方(左)に書きます。そして、当座預金という資産が300,000円減ったので貸方(右)に書きます。
(借)支払手形 300,000 / (貸)当座預金 300,000
振り出したときに貸方に立てた支払手形を、決済でこんどは借方に書いて消す、というイメージです。左右とも300,000円で一致しています。

Q. 同じ支払期日に、B社が持っていたA社振出の約束手形300,000円が決済され、当座預金に入金された。B社の仕訳を書いてください。

A. 手形代金を受け取ったので、受取手形(資産)という権利がなくなります。資産の減少は貸方(右)に書きます。かわりに、当座預金という資産が300,000円増えたので借方(左)に書きます。
(借)当座預金 300,000 / (貸)受取手形 300,000
受け取ったときに借方に立てた受取手形を、決済でこんどは貸方に書いて消します。B社にとっては、ようやく手形が「本物のお金」に変わった瞬間ですね。

手形は「振り出したとき(発生)」と「決済されたとき(消滅)」の2回、仕訳が登場するのが特徴です。売掛金・買掛金が「掛けで売買したとき」と「あとで回収・支払したとき」で2回出てくるのと、まったく同じリズムです。発生のときに立てた科目を、決済のときに反対側へ書いて消す ―― この往復をセットで覚えると、頭の中がすっきり整理できますよ。

4. 電子記録債権・電子記録債務(でんさい)

ここまでは「紙の手形」の話でした。紙の手形には、作成に手間がかかる・郵送コストがかかる・盗難や紛失のおそれがあるといった弱点があります。そこで生まれたのが、手形と同じはたらきを電子データで実現する仕組み、電子記録債権(でんしきろくさいけん)です。愛称で「でんさい」とも呼ばれます。

4.1 手形との対応関係で覚える

でんさいは、専用の記録機関(電子債権記録機関)に「〇月〇日に、いくら支払う」という記録を登録することで発生します。やっていることは手形とそっくりなので、手形との対応で覚えるのがいちばんの近道です。

約束手形と電子記録債権(でんさい)の対応関係の比較表。受け取る側・支払う側の科目、記録のしかた、決済方法、紛失リスクを対比
図 6-4 約束手形と電子記録債権(でんさい)の対応関係。受け取る側の科目・支払う側の科目が、手形と1対1で対応しています。仕組みは同じで、紙か電子かのちがいと考えると分かりやすいです。

4.2 発生記録の仕訳

でんさいは、多くの場合、すでにある売掛金・買掛金を「でんさい」に切りかえる形で使われます。たとえば、買掛金を支払うかわりに電子記録債務を発生させる、というイメージです。具体例を見ましょう。

C社は、D社に対する買掛金200,000円について、取引銀行を通じて電子記録債務の発生記録を行ったという取引です。C社は支払う側(債務者)、D社は受け取る側(債権者)です。

電子記録債権・債務の発生記録時の両社の仕訳。D社は借方 電子記録債権・貸方 売掛金、C社は借方 買掛金・貸方 電子記録債務
図 6-5 でんさいの発生記録。受け取る側のD社は売掛金が電子記録債権に、支払う側のC社は買掛金が電子記録債務に、それぞれ姿を変えます。

Q. C社は、D社に対する買掛金200,000円について、電子記録債務の発生記録を行った。C社(債務者・支払う側)の仕訳を書いてください。

A. もともとあった買掛金(負債)が消え、かわりに電子記録債務(負債)が生まれます。買掛金の減少は借方(左)、電子記録債務の増加は貸方(右)です。
(借)買掛金 200,000 / (貸)電子記録債務 200,000
負債が別の負債に置きかわっただけなので、C社の借金の総額は変わりません。左右とも200,000円で一致しています。
なお、受け取る側のD社は反対に「(借)電子記録債権 200,000 / (貸)売掛金 200,000」となり、売掛金が電子記録債権に置きかわります。

4.3 決済の仕訳

支払期日が来ると、でんさいも手形と同じように当座預金を通じて決済されます。支払う側の当座預金から引き落とされ、受け取る側の当座預金に入金されます。

Q. 支払期日になり、先ほどの電子記録債務200,000円が、C社の当座預金から引き落とされて決済された。C社の仕訳を書いてください。

A. 支払う義務である電子記録債務(負債)がなくなるので借方(左)、当座預金という資産が200,000円減るので貸方(右)です。
(借)電子記録債務 200,000 / (貸)当座預金 200,000
支払手形の決済((借)支払手形 / (貸)当座預金)と、まったく同じ形になっていますね。受け取る側のD社は「(借)当座預金 200,000 / (貸)電子記録債権 200,000」で、これも受取手形の決済とうり二つです。

でんさいは、名前がいかめしいので身がまえてしまいますが、「受取手形を電子記録債権に、支払手形を電子記録債務に置きかえただけ」と考えれば、新しく覚えることはほとんどありません。仕訳の形も手形と同じです。むしろ、手形の仕訳をしっかり身につけておけば、でんさいはその応用として自然に解けるようになります。手形とでんさいは「紙か電子かのちがい」と割り切ってしまいましょう。

5. 手形貸付金・手形借入金 ―― お金の貸し借りに使う手形

ここまでの手形は、すべて商品の売買にともなうものでした。じつは手形には、もう1つ別の使い道があります。それがお金の貸し借り(金銭の貸借)です。

5.1 借用証書のかわりに手形を使う

会社どうしでお金を貸し借りするとき、ふつうは「借用証書」を取りかわします。このとき、借用証書のかわりに約束手形を使うことがあります。「〇月〇日に、この金額を返します」という手形を、お金を借りる側が振り出して、貸す側に渡すのです。

このケースで使う科目は、商品売買のときとは別の名前になります。ここが大事なポイントです。

5.2 商品売買の手形と混同しない

ここが第6章で一番まちがえやすいところです。同じ「約束手形」でも、何のために使ったかで科目が変わります。

実際の例で見てみましょう。E社はF社に現金500,000円を貸し付け、同額のF社振出の約束手形を受け取ったという取引です。E社が貸す側、F社が借りる側です。

約束手形を使ってお金を貸し借りしたときの両社の仕訳。E社は借方 手形貸付金・貸方 現金、F社は借方 現金・貸方 手形借入金
図 6-6 お金の貸し借りに手形を使ったケース。同じ約束手形でも、商品売買ではなく金銭の貸借なので、受取手形・支払手形ではなく手形貸付金・手形借入金を使います。

Q. E社は、F社に現金500,000円を貸し付け、担保としてF社が振り出した約束手形を受け取った。E社(貸す側)の仕訳を書いてください。

A. お金を貸したので、あとで返してもらう権利である手形貸付金(資産)が増えます(借方)。かわりに現金(資産)が500,000円減ったので貸方に書きます。
(借)手形貸付金 500,000 / (貸)現金 500,000
ここで「受取手形」と書いてしまうのが典型的なまちがいです。商品を売ったわけではなくお金を貸したので、正しくは手形貸付金です。
なお、借りる側のF社は反対に「(借)現金 500,000 / (貸)手形借入金 500,000」となります。現金を受け取り、あとで返す義務(手形借入金)を負ったわけですね。

第6章で登場する勘定科目のまとめ。受取手形・支払手形・電子記録債権・電子記録債務・手形貸付金・手形借入金の5要素と増える側の一覧表
図 6-7 この章で登場した勘定科目の整理。受け取る権利は資産(増えたら借方)、支払う義務は負債(増えたら貸方)という共通ルールが、すべてに当てはまっています。
第6章の勘定科目は数が多く見えますが、図6-7のように並べると、「受け取る権利=資産(借方)」「支払う義務=負債(貸方)」という、これまでと同じ1本の柱で貫かれていることが分かります。新しい科目名に出会っても、あわてず「これは受け取る側か、支払う側か」と自問すれば、資産か負債かはすぐに決まります。名前を丸暗記するのではなく、この判断の型を身につけることが、簿記を安定して解くコツです。

💡 第6章 要点まとめ

おつかれさまでした。第6章では、「あとで払う・あとで受け取る」約束を、手形とでんさいという形で記録する方法を学びました。売掛金・買掛金の考え方が、そのまま手形にも通用することが実感できたのではないでしょうか。次の第7章「その他の債権・債務」では、お金の貸し借り(貸付金・借入金と利息)や、商品以外の売買で生じる未収入金・未払金、給料から預かる源泉所得税など、会社をとりまくさまざまな債権・債務を一気に整理していきます。手形で身につけた「受け取る権利は資産、支払う義務は負債」という感覚を武器に、次へ進みましょう。

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