8桁精算表の作り方、決算振替仕訳と帳簿の締切、貸借対照表・損益計算書の作成をやさしく解説します。
決算(けっさん)とは、1年間の帳簿を締めて、会社の成績(もうけ)と財産の状態を明らかにする作業でした。その最終成果物が、第1章から登場している損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)です。ところが、いきなり正式な P/L・B/S を作ろうとすると、決算整理の修正が正しく反映できているか、貸借がずれていないかを、途中で確かめにくいという難点があります。
そこで会計の実務では、正式な財務諸表を作る前に、1枚の下書き用紙で全体を組み立てて検算するという手順を踏みます。この下書き用紙が精算表です。決算整理前の残高試算表を出発点に、決算整理の修正を書き込み、最後に各科目を P/L と B/S へ振り分ける ―― その一連の流れを、横に並べたマス目の上で一気に処理できるのですね。
精算表にはいくつか種類がありますが、日商簿記3級の出題範囲で中心となるのが8桁精算表(はちけたせいさんひょう)です。「8桁」とは金額の桁数のことではなく、金額を書く欄が8列あるという意味です。左端に勘定科目の列があり、その右に、次の4種類の金額欄がそれぞれ借方・貸方の2列ずつ並びます。
精算表は、1つの科目(1行)を左から右へ横に処理していくと考えると迷いません。手順は次のとおりです。
手順④の「どちらの欄へ移すか」は、実は第2章で学んだ5要素のホームポジションがそのまま使えます。修正記入まで終えると、各科目の残高はホームポジション側に残ります。あとは、収益・費用なら P/L 欄へ、資産・負債・純資産なら B/S 欄へ、残高を同じ側(借方は借方、貸方は貸方)にスライドさせるだけです。
迷ったら、まず「この科目は5要素のどれか」を考えるのが鉄則です。資産・負債・純資産の3つはB/S チーム、収益・費用の2つはP/L チーム ―― この対応は第1章から一貫していますね。
Q. 次の(a)〜(d)の科目は、修正記入を終えたあと、精算表の損益計算書欄・貸借対照表欄のどちらの、借方・貸方どちらへ移りますか。
(a) 売上 (b) 給料 (c) 買掛金 (d) 繰越商品
A. まず5要素に分類し、ホームポジション側のまま該当の表へ移します。
「5要素は何か → ホームはどちら側か」の2ステップで、行き先の欄と借貸が自動的に決まります。
それでは、ひとつの会社の決算を題材に、精算表を最初から最後まで完成させてみましょう。手を動かしながら読むと、ぐっと理解が深まりますよ。
設例に入る前に、実際の決算でひとつ手前に来る作業を確認しておきましょう。決算整理は「期中の記帳が正しく行われている」ことを前提にした調整です。ところが現実には、期中の取引の記帳が漏れていた、あるいは誤って記帳していたということが起こります。こうした項目を未処理事項(みしょりじこう)といい、決算整理に入る前に先に片づけます。
たとえば「売掛金80,000円が当座預金に振り込まれていたのに、その記帳がまだ行われていなかった」という場合、次の修正仕訳を追加します。
(借)当座預金 80,000 /(貸)売掛金 80,000
これから見ていく設例では、流れを追いやすくするために未処理事項はなく、決算整理事項だけを扱います。まずは決算整理から精算表までの道すじを、しっかり体に入れてしまいましょう。
ある株式会社の決算整理前残高試算表は、次のとおりでした(借方合計・貸方合計はともに1,220,000円で一致しています)。
| 借方の科目・金額 | 貸方の科目・金額 |
|---|---|
| 現金 100,000/売掛金 200,000/繰越商品 60,000/備品 240,000/仕入 500,000/給料 120,000 | 買掛金 120,000/貸倒引当金 2,000/備品減価償却累計額 48,000/資本金 300,000/繰越利益剰余金 50,000/売上 700,000 |
これに対する決算整理事項は、次の4つです(すべて第11章までで学んだ内容です)。
精算表の修正記入欄には、決算整理仕訳がそのまま入ります。ですから、先に4つの仕訳を確定させましょう。
Q. 決算整理事項①の「売上原価の算定」の仕訳を書き、精算表の仕入欄が最終的にいくらになるか求めてください。期首商品(繰越商品の試算表残高)は60,000円、期末商品棚卸高は80,000円です。
A. 仕入勘定で売上原価を求めるときは、次の2本を書きます(「しーくりくりしー」の順)。
(借)仕入 60,000 /(貸)繰越商品 60,000 ……期首商品を仕入に振り替える
(借)繰越商品 80,000 /(貸)仕入 80,000 ……期末商品を繰越商品に戻す
仕入勘定は、試算表の借方500,000円に、修正記入の借方60,000円を足し、貸方80,000円を引きます。
仕入(=売上原価)= 500,000 + 60,000 − 80,000 = 480,000円。
一方、繰越商品は 60,000 + 80,000 − 60,000 = 80,000円となり、これが期末の商品(資産)としてB/S欄へ行きます。
Q. 決算整理事項②について、修正記入欄に書く貸倒引当金繰入の金額を求めてください。売掛金の期末残高は200,000円、貸倒れの見積りは2%、設定前の貸倒引当金残高は2,000円で、差額補充法によります。
A. まず、あるべき貸倒引当金(設定額)を計算します。
設定額 = 200,000 × 2% = 4,000円。
差額補充法では、すでにある残高2,000円との差額だけを繰り入れます。
繰入額 = 4,000 − 2,000 = 2,000円。
仕訳は(借)貸倒引当金繰入 2,000 /(貸)貸倒引当金 2,000。修正記入後、貸倒引当金は 2,000 + 2,000 = 4,000円となり、B/S欄の貸方へ行きます。
4つの仕訳を修正記入欄に写したら、各行を横に足し引きし、修正後の残高を P/L 欄・B/S 欄へ移します。完成した精算表が次の図です。
ここで注目してほしいのが、いちばん下の当期純利益の行です。損益計算書欄では、収益の合計700,000円から費用の合計670,000円(=480,000+140,000+2,000+48,000)を引いた差額30,000円が借方に、貸借対照表欄では同じ30,000円が貸方に現れます。この2か所の30,000円がぴったり一致することこそ、精算表が正しく完成した何よりの証拠です。
ここまでは、決算整理の結果を1枚の精算表にまとめてきました。ところが決算の場面では、精算表を作らずに、決算整理仕訳を反映したあとの残高だけを試算表の形で一覧にするやり方もあります。これが決算整理後残高試算表(けっさんせいりござんだかしさんひょう)です。「後T/B(ごティービー)」と略して呼ばれることもあります。
むずかしく考える必要はありません。精算表の①試算表欄と②修正記入欄を横に足し引きし、その結果だけを書き出したもの ―― それが決算整理後残高試算表です。精算表でいえば、「修正記入まで終わった状態」をそのまま切り取って一覧にしたもの、とイメージしてください。
第3節の設例(決算整理前残高試算表の合計1,220,000円、決算整理4件)で、実際に作ってみましょう。やることは、精算表の各行について「試算表欄 ± 修正記入欄」を計算するだけです。たとえば仕入なら 500,000 + 60,000 − 80,000 = 480,000円、繰越商品なら 60,000 + 80,000 − 60,000 = 80,000円、といった具合ですね。
決算整理前は借方・貸方とも1,220,000円でしたが、決算整理後は1,290,000円になりました。金額が変わっても、借方合計と貸方合計が一致することは変わりません。ここが一致しなければ、決算整理仕訳のどこかで貸借を書き誤っています。
決算整理後残高試算表ができていれば、あとは各科目を収益・費用(P/Lチーム)と資産・負債・純資産(B/Sチーム)に分けるだけで、そのまま財務諸表が作れます。設例で確かめてみましょう。
借方は 670,000 + 620,000 = 1,290,000円、貸方は 700,000 + 590,000 = 1,290,000円。決算整理後残高試算表の合計と、ぴったり一致していますね。そして2つのチームの差額が、どちらも30,000円。精算表で見た当期純利益の一致は、後T/Bを2つに割るだけでも同じように現れるのです。
Q. 設例の決算整理後残高試算表(借方合計・貸方合計とも1,290,000円)では、繰越利益剰余金が50,000円と書かれています。この会社の当期純利益は30,000円でした。
(1) なぜ後T/Bの繰越利益剰余金には、当期純利益が含まれていないのですか。
(2) 決算整理後残高試算表だけを渡されたとき、当期純利益はどう計算しますか。
A. (1) 当期純利益を繰越利益剰余金へ振り替えるのは、決算整理のあとに行う帳簿の締切(決算振替)の手続きだからです。決算整理後残高試算表は、その名のとおり決算整理までを終えた時点の残高一覧なので、振替はまだ行われていません。だから繰越利益剰余金は、期首から変わらず50,000円のままなのですね。
(2) 収益と費用だけを抜き出して差額をとります。
収益 = 売上 700,000円
費用 = 仕入480,000 + 給料140,000 + 貸倒引当金繰入2,000 + 減価償却費48,000 = 670,000円
当期純利益 = 700,000 − 670,000 = 30,000円。
なお、資産側と、負債・純資産側との差額(620,000 − 590,000)をとっても、同じ30,000円になります。どちらから求めても一致するのが、複式簿記のありがたいところです。
精算表はあくまで下書き(検算用)です。実際の帳簿(総勘定元帳)も、決算整理を反映したうえで締め切り、翌期に備える必要があります。この締切の作業を見ておきましょう。ここでは日商簿記3級で扱う英米式(えいべいしき)という方法で説明します。
収益と費用は、その期かぎりのもの(P/Lチーム)でした。ですから決算では、すべての収益・費用の残高を、損益(そんえき)という特別な集計用の勘定に振り替えて、各勘定の残高をゼロにします。
こうすると、損益勘定の借方には費用の合計、貸方には収益の合計が集まります。その差額が当期純利益です。
損益勘定で計算された当期純利益は、会社(株主)の取り分が増えたということですから、純資産の勘定である繰越利益剰余金(くりこしりえきじょうよきん)へ振り替えます。
(借)損益 30,000 /(貸)繰越利益剰余金 30,000
この仕訳で損益勘定は貸借がそろってゼロになり、繰越利益剰余金は「もとの残高+当期純利益」に増えます。最後に、資産・負債・純資産の各勘定は次期繰越として残高を繰り越して締め切ります。全体の流れは次の図のとおりです。
Q. 設例の損益勘定は、借方に費用の合計670,000円、貸方に収益(売上)700,000円が集まりました。当期純利益はいくらで、それはどの勘定へ、どんな仕訳で振り替えますか。また、振替後の繰越利益剰余金はいくらになりますか(振替前の残高は50,000円)。
A. 当期純利益 = 収益700,000 − 費用670,000 = 30,000円。
これを純資産の繰越利益剰余金へ振り替えます。
(借)損益 30,000 /(貸)繰越利益剰余金 30,000
振替後の繰越利益剰余金 = 50,000 + 30,000 = 80,000円。この80,000円が、翌期に繰り越される純資産の一部になります。
精算表が完成し、帳簿も締め切りました。あとは、精算表の P/L 欄・B/S 欄を清書して、正式な損益計算書と貸借対照表を作るだけです。ここでは、表示上のいくつかの約束ごとに気をつけましょう。
損益計算書は、精算表の損益計算書欄をほぼそのまま清書します。ただし、仕入勘定で算定した費用は、表示上は「売上原価」という名前で示します(設例では480,000円)。売上も、表示上は「売上高」とすることがあります。
貸借対照表を作るときは、精算表の B/S 欄をそのまま並べるだけでなく、いくつか表示の作法があります。設例の完成 B/S を見ながら確認しましょう。
Q. 設例の売掛金は帳簿残高200,000円、これに対する貸倒引当金は4,000円です。また、備品の帳簿残高(取得原価)は240,000円、減価償却累計額は96,000円です。これらは貸借対照表上、それぞれいくらの正味金額で表示されますか。
A. どちらも、資産から評価・累計の勘定を控除(△)した正味額で示します。
売掛金:200,000 − 貸倒引当金4,000 = 196,000円
備品:240,000 − 減価償却累計額96,000 = 144,000円
なお、控除する4,000円・96,000円も、金額を並べて「いくら差し引いたか」が読み手に分かるように表示します。
これで、資産合計520,000円と、負債・純資産合計520,000円がぴったり一致した貸借対照表が完成しました。精算表で確かめた数字が、そのまま2枚の財務諸表になったわけですね。第1章で描いた「簿記のゴール」に、いま確かにたどり着きました。
おつかれさまでした。これで、バラバラだった決算整理の仕訳が、精算表を通じて2枚の財務諸表へと結実する流れが、ひととおり体験できました。簿記一巡の「終着駅」に到着です。次の第13章「補助簿・伝票会計+総仕上げ演習」では、日々の記録を助ける補助簿や、仕訳を効率化する伝票を学んだうえで、これまでの総まとめとなる仕上げ演習に挑みます。ゴールはもうすぐそこ。最後まで一緒に歩いていきましょう。
この章の内容を、演習問題つきでもう一歩深く学べます。理解度を試したい方はこちら。
演習つき学習版で第12章を学ぶ →無料会員登録すると、メモや学習時間の記録などの機能も使えます。