決算整理の全体像、前払費用・未払費用・前受収益・未収収益、貯蔵品など、決算整理仕訳をまとめて解説します。
会社は1年に一度、帳簿を締めて貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を作ります。この一連の締めの作業を決算(けっさん)といい、その締め切りの日を決算日(けっさんび)と呼びます。たとえば会計期間が「4月1日〜翌年3月31日」の会社なら、決算日は3月31日ですね。
ところが、日々つけてきた帳簿の数字を、決算日にそのまま集計するだけでは正しい財務諸表になりません。日常の記録には、次のような「ズレ」や「モレ」がどうしても残っているからです。
こうしたズレを一つずつ直して、数字を「あるべき姿」に整える。それが決算整理(けっさんせいり)で、そのために切る仕訳を決算整理仕訳といいます。
決算整理でやるべきこと(決算整理事項)は、3級の範囲ではだいたい決まっています。全体を一覧にしておきましょう。
下の3つ(減価償却・貸倒引当金・法人税等)は、実はもう学び終えています。それぞれ「固定資産の目減りを費用にする」「回収できない見込み額を見積もる」「当期の税額を確定する」という、まさに決算でやる作業でした。つまりみなさんは、決算整理の半分をすでに身につけているのです。この章では残りの5つ ―― とくに経過勘定と売上原価を、じっくり見ていきます。
いよいよこの章の中心、経過勘定(けいかかんじょう)です。名前はいかめしいですが、やることは一つ。「お金を払った(受け取った)タイミング」と「その費用・収益が本当に属する期間」のズレを直す、ただそれだけです。
簿記では、費用や収益を「お金を払った・受け取ったとき」ではなく「サービスを受けた・提供したとき」に計上する、という約束があります。これを発生主義(はっせいしゅぎ)といいます。
たとえば、3月1日に「向こう1年分」の保険料を現金で一括払いしたとします。お金はもう出ていきましたが、保険というサービスはこれから1年かけて受けるものですね。だから「払った額の全部が今年の費用」ではなく、「今年受けたぶんだけが今年の費用」でなければおかしいわけです。このお金の動きとサービスの期間のズレを、決算日に調整するのが経過勘定です。
4パターンありますが、迷ったら図11-2のように「お金が先か、あとか」「費用か、収益か」の2×2で整理するのが近道です。まずは費用の2つ(前払費用・未払費用)から見ていきましょう。
前払費用(まえばらいひよう)は、お金を先に払ったが、そのサービスの一部がまだ来期の分というケースです。来期の分は「まだ受けていないサービスを先に払った」状態なので、これはあとでサービスを受け取れる権利=資産と考えます。
具体例で見ましょう。会計期間は4月1日〜翌3月31日とします。
Q. 8月1日、向こう1年分(8月1日〜翌年7月31日)の保険料24,000円を現金で支払った。3月31日の決算にあたり、必要な決算整理仕訳を示しなさい。
A. まず支払ったときは、全額を費用(支払保険料)で記録しています。
(借)支払保険料 24,000 /(貸)現金 24,000
このうち翌期(4月1日〜7月31日)の4か月分は、来期の費用です。1か月あたり 24,000 ÷ 12 = 2,000円なので、
前払分 = 2,000 × 4か月 = 8,000円
この8,000円を費用から取り除き、前払保険料(資産)に振り替えます。
(借)前払保険料 8,000 /(貸)支払保険料 8,000
これで当期の費用は 24,000 − 8,000 = 16,000円(8か月分)となり、当期に受けたサービスの分だけが費用に残りました。左右とも8,000円で一致していますね。
今度は逆のパターンです。未払費用(みばらいひよう)は、当期にサービスを受けたのに、まだお金を払っていないケース。当期の費用であることは間違いないので費用に加え、まだ払っていない分はあとで払う義務=負債として計上します。
Q. 10月1日に1,000,000円を年利3%、期間1年(利息は返済日にまとめて支払う)で借り入れた。3月31日の決算にあたり、当期分の利息を計上する仕訳を示しなさい。
A. 利息を実際に払うのは返済日(翌年9月30日)ですが、10月1日〜3月31日の6か月分はすでに当期に発生した費用です。
1年分の利息 = 1,000,000 × 3% = 30,000円
当期分 = 30,000 × 6か月 ÷ 12か月 = 15,000円
この15,000円を当期の費用(支払利息)に加え、まだ払っていないので未払利息(負債)を計上します。
(借)支払利息 15,000 /(貸)未払利息 15,000
これで、お金はまだ動いていないのに、当期に発生した利息15,000円がきちんと費用に反映されました。
費用の裏返しが、収益の経過勘定です。考え方はまったく同じ。「受け取ったお金のタイミング」と「サービスを提供した期間」のズレを直します。今度は自分がサービスを「提供する側」だとイメージしてください。
前受収益(まえうけしゅうえき)は、お金を先に受け取ったが、そのサービスの一部はまだ来期に提供する分というケースです。来期の分は「お金だけ先にもらって、サービスはこれから提供する」状態なので、あとでサービスを提供する義務=負債と考えます。
Q. 2月1日、店舗の一部を貸している相手から、向こう6か月分(2月1日〜7月31日)の家賃60,000円を現金で受け取った。3月31日の決算にあたり、必要な決算整理仕訳を示しなさい。
A. 受け取ったときは全額を収益(受取家賃)で記録しています。
(借)現金 60,000 /(貸)受取家賃 60,000
このうち翌期(4月1日〜7月31日)の4か月分は、来期の収益です。1か月あたり 60,000 ÷ 6 = 10,000円なので、
前受分 = 10,000 × 4か月 = 40,000円
この40,000円を収益から取り除き、前受家賃(負債)に振り替えます。
(借)受取家賃 40,000 /(貸)前受家賃 40,000
これで当期の収益は 60,000 − 40,000 = 20,000円(2か月分)となりました。
未収収益(みしゅうしゅうえき)は、当期にサービスを提供したのに、まだお金を受け取っていないケース。当期の収益なので収益に加え、まだもらっていない分はあとで受け取れる権利=資産として計上します。
Q. 11月1日に600,000円を年利4%、期間1年(利息は返済日にまとめて受け取る)で貸し付けた。3月31日の決算にあたり、当期分の利息を計上する仕訳を示しなさい。
A. 利息を実際に受け取るのは返済日(翌年10月31日)ですが、11月1日〜3月31日の5か月分はすでに当期に発生した収益です。
1年分の利息 = 600,000 × 4% = 24,000円
当期分 = 24,000 × 5か月 ÷ 12か月 = 10,000円
この10,000円を当期の収益(受取利息)に加え、まだ受け取っていないので未収利息(資産)を計上します。
(借)未収利息 10,000 /(貸)受取利息 10,000
お金はまだ動いていませんが、当期に発生した利息10,000円が収益に反映されました。
ここまでの4パターンを、一覧で整理しておきましょう。
経過勘定には、もう一つ大事な仕上げがあります。それが再振替仕訳(さいふりかえしわけ)です。決算で作った前払・未払・前受・未収の各勘定を、翌期首(翌期の最初の日)に、決算整理仕訳とちょうど逆の仕訳を切って消してしまうのです。
たとえば前払保険料の例(図11-3)なら、翌期首の4月1日にこう切ります。
これは決算整理仕訳「(借)前払保険料 8,000 /(貸)支払保険料 8,000」の借方・貸方をそっくり入れ替えた形ですね。こうしておくと、来期に受ける保険サービスの費用8,000円が、翌期のはじめからちゃんと支払保険料として計上された状態で再スタートできます。
経過勘定ほど大きなテーマではありませんが、決算日に忘れず処理したい整理事項がいくつかあります。まとめて片づけましょう。
郵便切手を買ったときは通信費(費用)、収入印紙を買ったときは租税公課(そぜいこうか。費用)として処理します。ところが決算日に使い残しがあると、その分はまだ「使っていない」=当期の費用ではありません。そこで、未使用分を費用から取り除き、貯蔵品(ちょぞうひん。資産)という勘定に振り替えます。
Q. 決算にあたり、未使用の郵便切手が3,000円分、収入印紙が5,000円分あることが分かった。これらは購入時にそれぞれ通信費・租税公課で処理している。必要な決算整理仕訳を示しなさい。
A. 未使用分は当期の費用ではないので、費用を減らして貯蔵品(資産)に振り替えます。
(借)貯蔵品 8,000 /(貸)通信費 3,000
/(貸)租税公課 5,000
借方の貯蔵品8,000円=貸方の通信費3,000円+租税公課5,000円で、金額はぴったり一致します。なお、経過勘定と同じように、この貯蔵品も翌期首に再振替して、もとの通信費・租税公課に戻します。
第5章で学んだ現金過不足を思い出しましょう。帳簿と実際の現金が合わないとき、いったん現金過不足という仮の勘定で受けておくのでした。もし決算日まで原因が分からなかった場合は、その仮勘定を残したまま帳簿を締めるわけにはいきません。そこで、不足していたなら雑損(ざっそん。費用)、余っていたなら雑益(ざつえき。収益)に振り替えて、現金過不足の残高をゼロにします。
Q. 決算にあたり、これまで借方に計上していた現金過不足1,500円について、原因が判明しなかった。必要な決算整理仕訳を示しなさい。
A. 借方の現金過不足は「現金が帳簿より不足していた」状態です。原因不明のまま決算を迎えたので、費用の雑損に振り替えます。
(借)雑損 1,500 /(貸)現金過不足 1,500
これで現金過不足の残高はゼロになりました。もし逆に貸方に現金過不足(現金が余っていた)があれば、収益の雑益に振り替えます。
これも第5章の復習です。当座預金は、あらかじめ銀行と契約しておくと残高以上の小切手を振り出せることがあり、その結果、当座預金勘定が貸方残高(マイナス)になることがあります。これは実質的に銀行からの一時的な借入れです。決算日に当座預金がマイナスのままだと、B/Sに「資産がマイナス」と載ってしまい不自然なので、その金額を当座借越(とうざかりこし)または借入金(負債)に振り替えます。
Q. 決算にあたり、当座預金勘定が貸方残高50,000円(マイナス)になっていた。これを適切な勘定に振り替えなさい。
A. マイナスの当座預金を借方に記入していったんゼロに戻し、同額を負債の当座借越に振り替えます。
(借)当座預金 50,000 /(貸)当座借越 50,000
これで、当座のマイナス分がB/Sの負債としてきちんと表示されます。この当座借越も、翌期首に再振替してもとに戻します。
この章の最後は、決算整理の山場の一つ売上原価(うりあげげんか)の算定です。第4章で三分法(仕入・売上・繰越商品の3つで商品売買を記録する方法)を学んだとき、「期末の調整はあとの章で」と伏線を張っておいたのを覚えているでしょうか。いよいよ、その伏線を回収します。
三分法では、商品を仕入れたときすべて仕入(費用)として記録してきました。しかし、仕入れた商品が全部その年に売れるとはかぎりません。売れ残った商品(期末の在庫)は、まだ費用にしてはいけない ―― それはお金を生む前の「資産」だからです。
そこで、当期の費用にすべき「売れた分の原価=売上原価」だけを取り出す計算をします。式で書くと、とてもシンプルです。
この計算を、三分法では仕入勘定の中で行います。使う仕訳はたった2本。語呂合わせで「しーくり・くりしー」と呼ばれる、簿記学習者おなじみの型です。
Q. 決算にあたり、次の資料が判明した。三分法により、売上原価を算定する決算整理仕訳を示し、売上原価の金額も求めなさい。
・期首商品棚卸高 100,000円 ・当期仕入高 700,000円 ・期末商品棚卸高 150,000円
A. 「しーくり・くりしー」の2本を切ります。
① し・くり(期首分を仕入へ):(借)仕入 100,000 /(貸)繰越商品 100,000
② くり・し(期末分を繰越商品へ):(借)繰越商品 150,000 /(貸)仕入 150,000
この2本を切ったあとの仕入勘定の残高が、そのまま売上原価になります。
売上原価 = 当期仕入高700,000 + 期首100,000 − 期末150,000 = 650,000円
計算式(期首+当期仕入−期末)の答えと一致しますね。なお②で振り替えた繰越商品150,000円は、翌期に繰り越される期末在庫(資産)としてB/Sに載ります。
おつかれさまでした。これで、財務諸表を作る前の下ごしらえ(決算整理)がひととおり身につきました。前払・未払・売上原価と、はじめは難しく感じたかもしれませんが、どれも「あるべき姿に数字を整える」という一つの目的でつながっています。次の第12章「精算表と財務諸表の作成」では、この章で切った決算整理仕訳を精算表(せいさんひょう)という1枚の表の上でまとめ、いよいよB/S・P/Lを完成させます。決算のゴールはもうすぐそこ。仕上げに向かいましょう。
この章の内容を、演習問題つきでもう一歩深く学べます。理解度を試したい方はこちら。
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