簿記入門(読み物版)― 第10章

第10章 株式会社の資本と税金

株式の発行と資本金、繰越利益剰余金と配当、法人税・住民税・事業税、消費税(税抜方式)を解説します。

ここまでの章では、現金・商品・手形・債権債務・固定資産と、会社が扱う「モノとお金」を一つずつ見てきました。第10章では、少し目線を上げて、「そもそも会社(株式会社)とはどういう仕組みで、そのお金=資本はどう記録するのか」を学びます。あわせて、会社が毎年かならず向き合う「税金」――法人税や消費税、固定資産税など――の仕訳もここでまとめて身につけましょう。
「税金の話はむずかしそう…」と身構えるかもしれませんが、大丈夫。やることは「いつ・いくら・どの勘定で書くか」を流れで押さえるだけです。一つひとつの取引を絵にしながら、ゆっくり進んでいきますね。この章を終えると、会社の純資産(資本金・繰越利益剰余金)と税金まわりが、すっきり整理されますよ。

🎯 この章でマスターしておきたいこと

📚 本章の流れ

  1. 株式会社と株式のしくみ
  2. 資本金 ―― 設立と増資
  3. 繰越利益剰余金と剰余金の配当
  4. 法人税・住民税及び事業税
  5. 消費税(税抜方式)
  6. 租税公課 ―― 費用になる税金・ならない税金
  7. 要点まとめ

1. 株式会社と株式のしくみ

第1章で「会社はまず元手(資本)を集める」というお話をしました。その代表的な集め方が、株式(かぶしき)を発行してお金を出してもらうやり方です。この仕組みを使う会社を株式会社(かぶしきがいしゃ)といいます。日本の会社のほとんどはこの形で、アクチュアリー試験の会計でも、扱う会社は基本的に株式会社です。

1.1 株主・出資・株式

会社にお金を出してくれた人を株主(かぶぬし)といいます。株主が会社にお金を出すことを出資(しゅっし)といい、その見返りに会社が発行する「出資したという証明書」が株式です。集まったお金は、返す必要のない元手として資本金(しほんきん)になります(第1章で「返さなくてよいお金」と説明したものですね)。

株式会社と株主のしくみ。株主が出資し、会社は株式・配当を返す。株主は有限責任
図 10-1 株式会社のしくみ。株主が出資してお金を集め(=資本金)、会社はそれを元手に活動します。もうけの一部は配当として株主に還元されます。

1.2 有限責任 ―― 株主が負うリスクは「出したお金まで」

株式会社の大きな特徴が有限責任(ゆうげんせきにん)です。これは、万が一会社が倒産しても、株主が失うのは出資した金額までで、それ以上の借金を肩代わりする必要はない、という仕組みです。リスクが「出したお金」で頭打ちになるので、多くの人が安心してお金を出せます。だからこそ株式会社は、大きな元手を集めるのに向いているのですね。

株主は「オーナー(持ち主)」ですが、必ずしも自分で経営するわけではありません。ふつうは株主総会で経営者(取締役)を選び、日々の経営はその人たちに任せます。この「持ち主と経営者が分かれている」という点は、会計の教科書でも前提として登場します。今は「株主=お金を出した人/経営者=任されて動かす人」とざっくり分けて覚えておけば十分ですよ。

2. 資本金 ―― 設立と増資

それでは、株式会社が元手を集めたときの仕訳を見ていきましょう。場面は2つ。会社を新しく作る設立(せつりつ)のときと、あとから追加でお金を集める増資(ぞうし)のときです。どちらも考え方は同じで、払い込まれたお金が資産(当座預金など)として増え、その分だけ純資産の資本金が増える――ただそれだけです。

2.1 払い込まれた額は「全額を資本金」とする

株式を発行してお金を受け取ったら、その払込金額の全額を「資本金」とします。本コースではこの全額資本金処理で統一します。仕訳の形はいつも次のとおりです。

設立時と増資時の資本金の仕訳。借方 当座預金、貸方 資本金
図 10-2 資本金の仕訳。設立でも増資でも、受け取ったお金(借方)=資本金の増加(貸方)という形は変わりません。

Q. 会社を設立し、株式100株を1株あたり50,000円で発行して、払込金額の全額が当座預金に振り込まれた。この設立の仕訳を書いてみましょう。

A. まず払込金額の合計を計算します。
100株 × 50,000円 = 5,000,000円。
この全額が当座預金(資産)として増え、同額だけ資本金(純資産)が増えます。
(借)当座預金 5,000,000 / (貸)資本金 5,000,000
借方5,000,000円=貸方5,000,000円で、金額はぴったり一致しますね。

Q. その後、事業拡大のため増資を行い、株式50株を1株あたり60,000円で発行して、全額が当座預金に払い込まれた。増資の仕訳を書いてみましょう。

A. 払込金額は 50株 × 60,000円 = 3,000,000円。
設立のときとまったく同じ考え方で、当座預金が増え、資本金が増えます。
(借)当座預金 3,000,000 / (貸)資本金 3,000,000
これで資本金は、設立時の5,000,000円と合わせて8,000,000円になりました。

実務や会計の教科書では、払込額の一部を「資本準備金」という別の科目にすることもあります。ただし本コース(日商簿記3級レベル)では、話をシンプルに保つため払込額は全額を資本金とします。「資本金以外の払込金もある」という話は、会計の教科書に進んでから出会えば大丈夫。今は「出資されたお金は資本金」という基本の形を、確実に手になじませましょう。

3. 繰越利益剰余金と剰余金の配当

会社は毎年、活動して利益(当期純利益)を生み出します。第1章で「P/LのもうけはB/Sの純資産につながっていく」とお話ししたのを覚えているでしょうか。そのもうけがたまっていく場所が、純資産の中の繰越利益剰余金(くりこしりえきじょうよきん)という科目です。

3.1 もうけは繰越利益剰余金に積み上がる

純資産は、大きく分けると「株主が出した元手=資本金」と「会社が稼いでためたもうけ=繰越利益剰余金」の2つでできています。決算で当期純利益が出ると、その分だけ繰越利益剰余金が増えていきます。年を追うごとに、もうけがコツコツ積み上がっていくイメージです。

純資産の内訳。資本金は一定で、繰越利益剰余金が当期純利益の分だけ積み上がっていく
図 10-3 純資産の内訳。資本金は変わらず、毎期の当期純利益が繰越利益剰余金として積み上がっていきます。

3.2 剰余金の配当 ―― 株主総会で決めて、あとで支払う

たまった繰越利益剰余金の一部を、株主へのお礼として分け前を渡すことを剰余金の配当(はいとう)といいます。ここでのポイントは「決める日」と「払う日」がずれることです。

配当は株主総会で決議(けつぎ)して決まりますが、実際にお金を払うのは後日になります。そこで、決議の日にはまず「払うことが決まった=支払う義務」を未払配当金(みばらいはいとうきん)という負債で記録し、後日の支払日にその負債を消す、という2段階になります。

さらに、配当をするときは利益準備金(りえきじゅんびきん)という積立てを一定額しなければならない、という会社法のルールがあります。これは「もうけを全部配ってしまわず、会社の中に一部を残しておく」ためのもの。仕訳では、繰越利益剰余金を減らして、その内訳を未払配当金(実際に配る分)と利益準備金(会社に残す分)に振り分けます。

剰余金の配当の仕訳。決議時に繰越利益剰余金を減らし未払配当金・利益準備金へ、支払時に未払配当金を減らす
図 10-4 剰余金の配当。決議時に繰越利益剰余金を取りくずし、支払時に未払配当金(負債)を消します。

Q. 株主総会で、繰越利益剰余金から株主への配当金1,000,000円と、利益準備金の積立て100,000円が決議された。
(1) 決議時の仕訳と、(2) 後日、配当金を当座預金から支払ったときの仕訳を書いてみましょう。

A.

(1) 決議時 ―― 配当と積立ての合計だけ繰越利益剰余金(純資産)が減ります。
減る額は 1,000,000 + 100,000 = 1,100,000円。
(借)繰越利益剰余金 1,100,000 / (貸)未払配当金 1,000,000
                 /   利益準備金   100,000
借方1,100,000円=貸方(1,000,000+100,000)で一致します。この時点ではまだお金は動いていません。

(2) 支払時 ―― 決めておいた義務(未払配当金)を、実際のお金で消します。
(借)未払配当金 1,000,000 / (貸)当座預金 1,000,000

配当のところは「なぜ2回に分けるの?」と戸惑いやすい箇所です。ポイントは「決めた瞬間に、会社は株主に払う義務を負う」ということ。義務が生まれた日(決議日)に負債(未払配当金)を立て、お金を渡した日にその負債を消す――第7章で学んだ未払金と同じ考え方です。利益準備金は「配るときに一部を会社に残しておく貯金」とイメージすれば、積立ての意味もつかみやすいですよ。

4. 法人税・住民税及び事業税

会社がもうけると、その利益に対して税金がかかります。代表が法人税・住民税・事業税の3つで、簿記ではまとめて「法人税、住民税及び事業税」(略して法人税等)という1つの勘定で扱います。これは会社のもうけから納める税金なので、費用に近い形で処理しますが、名前は少し特別です。

4.1 中間納付 → 決算で確定 → 納付 の3ステップ

法人税等は、1年分をまとめて後払いするのではなく、期の途中で一度「概算の前払い」をします。これを中間納付(ちゅうかんのうふ)といい、前払いした分はいったん仮払法人税等(かりばらいほうじんぜいとう)という資産(あとで精算される仮の前払い)で記録します。

そして決算で1年分の税額が確定したら、法人税、住民税及び事業税として計上し、すでに前払いしていた仮払法人税等を差し引いて、残りを未払法人税等(みばらいほうじんぜいとう)という負債にします。最後に、後日その未払分を納めて完了です。

法人税等の一連の流れ。中間納付で仮払法人税等、決算で法人税等と未払法人税等、納付で未払を消す
図 10-5 法人税等の流れ。①中間納付(前払い)→②決算で確定→③残りを納付の3ステップ。前払い分(仮払)を差し引くのがポイントです。

Q. 次の一連の取引を仕訳してみましょう。
(1) 期の途中、法人税等の中間納付として150,000円を現金で納付した。
(2) 決算で、当期の法人税等が400,000円と確定した。
(3) 後日、確定した税額のうち未納分を現金で納付した。

A.

(1) 中間納付 ―― 前払いなので、資産の仮払法人税等で受けます。
(借)仮払法人税等 150,000 / (貸)現金 150,000

(2) 決算 ―― 確定額400,000円を計上し、前払い済みの150,000円を差し引いた残りを未払法人税等(負債)に。
未払分 = 400,000 − 150,000 = 250,000円。
(借)法人税、住民税及び事業税 400,000 / (貸)仮払法人税等 150,000
                    /   未払法人税等 250,000
借方400,000円=貸方(150,000+250,000)で一致します。

(3) 納付 ―― 残っていた義務(未払法人税等)を消します。
(借)未払法人税等 250,000 / (貸)現金 250,000

5. 消費税(税抜方式)

次は、私たちが買い物のたびに払っている消費税です。会社は、仕入のときに消費税を払い、売上のときにお客さんから消費税を預かります。そして決算で「預かった税」から「払った税」を差し引いた差額を、国に納めます。会社はいわば消費税の「預かり・立替の窓口」になっているわけですね。

5.1 税抜方式 ―― 消費税は本体価格と分けて記録する

本コースでは税抜方式(ぜいぬきほうしき)で処理します。これは、商品の本体価格と消費税を分けて記録するやり方です。使う勘定は次の3つ。

消費税(税抜方式)の流れ。仕入で仮払消費税、売上で仮受消費税、決算で差額を未払消費税として納付
図 10-6 消費税(税抜方式)の流れ。仮受消費税 − 仮払消費税 = 納める額(未払消費税)。この例では 20,000 − 10,000 = 10,000円です。

Q. 消費税率を10%として、次の一連の取引を税抜方式で仕訳しましょう。
(1) 商品を100,000円(税抜)で仕入れ、消費税とともに代金は掛けとした。
(2) 商品を200,000円(税抜)で売り上げ、消費税とともに代金は掛けとした。
(3) 決算で、納める消費税額を確定した。

A.

(1) 仕入 ―― 本体100,000円のほかに、払う消費税 100,000 × 10% = 10,000円 を仮払消費税に。
(借)仕入 100,000 / (貸)買掛金 110,000
   仮払消費税 10,000 /
借方(100,000+10,000)=貸方110,000で一致。

(2) 売上 ―― 本体200,000円のほかに、預かる消費税 200,000 × 10% = 20,000円 を仮受消費税に。
(借)売掛金 220,000 / (貸)売上 200,000
            /   仮受消費税 20,000
借方220,000=貸方(200,000+20,000)で一致。

(3) 決算 ―― 預かった仮受消費税から、払った仮払消費税を差し引いた差額が、納める額です。
20,000 − 10,000 = 10,000円。
(借)仮受消費税 20,000 / (貸)仮払消費税 10,000
             /   未払消費税 10,000
借方20,000=貸方(10,000+10,000)で一致します。後日この未払消費税10,000円を納めれば完了です。

消費税でつまずきやすいのは「仮払は資産、仮受は負債」という向きです。払った(=あとで取り戻せる立替に近い)ものが仮払で資産、預かった(=あとで国に渡す義務)ものが仮受で負債――こう理由づけて覚えると混乱しません。税抜方式では、消費税は会社の売上や仕入の金額(損益)には入りません。あくまで「預かって納めるだけ」なので、会社のもうけには影響しない、という点も押さえておきましょう。

6. 租税公課 ―― 費用になる税金・ならない税金

会社が払う税金は、法人税等や消費税だけではありません。固定資産税(土地・建物などにかかる税金)や、契約書や領収書に貼る収入印紙(印紙税)、自動車税なども支払います。これらは租税公課(そぜいこうか)という費用の勘定でまとめて処理します。

6.1 費用になる税金 ―― 租税公課

固定資産税や印紙税などは、支払ったときに租税公課(費用)として計上します。たとえば「固定資産税80,000円を現金で納付した」なら、次のようになります。

(借)租税公課 80,000 / (貸)現金 80,000

収入印紙を買ったときも同じく租税公課で処理します(未使用分の扱いは、第11章の決算整理でくわしく学びます)。

6.2 費用にならない税金との区別

一方で、すべての税金が租税公課になるわけではありません。前の節までに見た法人税・住民税・事業税は「法人税、住民税及び事業税」という専用の勘定で処理し、租税公課には入れません。消費税(税抜方式)も、仮払・仮受・未払の各勘定で処理し、費用にはしません。どの税金をどう記録するか、表で整理しておきましょう。

税金の記録のしかたの比較表。費用になる租税公課と、費用にならない法人税等・消費税
図 10-7 税金の記録のしかた。固定資産税・印紙税などは租税公課(費用)、法人税等・消費税は別の専用勘定で処理します。

Q. 次の(a)〜(c)の税金を支払ったとき、どの勘定科目で記録しますか。「租税公課(費用)」か「それ以外」かを答え、それ以外の場合は使う勘定名も書いてみましょう。
(a) 建物にかかる固定資産税 (b) 会社のもうけにかかる法人税 (c) 契約書に貼る収入印紙

A.

「もうけにかかる税金(法人税等)」と「消費税」は特別扱い、それ以外の固定資産税・印紙税などは租税公課、と覚えると整理しやすいですよ。

💡 第10章 要点まとめ

おつかれさまでした。これで、会社の純資産(資本金・繰越利益剰余金)と、税金まわりの仕訳がひととおり身につきました。ここまでの章で、日々の取引を記録する道具はほぼ出そろっています。次の第11章「決算整理」では、1年の締めくくりに行う決算の作業へと進みます。今日学んだ収入印紙の未使用分や、これまで積み残してきた「決算でまとめて調整すること」が、いよいよ一つにつながっていきますよ。

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