余剰分析と死荷重 — 価格規制で何が失われるのか
📅 2026年9月5日 公開
市場均衡はなぜ「効率的」なのか
消費者余剰で「お得感」を面積で測る方法を学びました。今回はそれを市場全体に広げ、市場に手を加えると何が起きるかを分析します。過去10年の実試験で毎年出題されている、経済の計算問題の中核テーマです。
まず基本の定義から。
- 消費者余剰(CS): 買い手が「払ってもよい額」と実際の支払額の差の合計
- 生産者余剰(PS): 売り手が受け取った額と「売ってもよい最低額」の差の合計
- 総余剰(社会的余剰): CS + PS(政府がいれば税収も加える)
完全競争市場の均衡では、この総余剰が最大になります。「見えざる手」の数学的な表現がこれです。逆に言えば、市場に介入すると総余剰は減る——その減少分が死荷重(deadweight loss、超過負担)です。
数値例で基準点を作る
需要 \(Q = 120 - P\)、供給 \(Q = 2P - 30\) の市場を考えます(税の帰着と同じ設定です)。均衡は \(P^* = 50\)、\(Q^* = 70\)。
需要曲線の縦軸切片は \(P = 120\)(誰も買わなくなる価格)、供給曲線の縦軸切片は \(P = 15\)(誰も売らなくなる価格)なので、
$$CS = \frac{1}{2}\times(120-50)\times 70 = 2{,}450, \qquad PS = \frac{1}{2}\times(50-15)\times 70 = 1{,}225$$
総余剰は 3,675。これが「介入なし」の基準値です。ここから2つの規制を試します。
ケース① 上限価格(家賃規制型)— 品不足を生む
政府が「価格は40以下にせよ」と上限価格を設定したとします(均衡50より低いので実効的)。
- 需要量: \(120 - 40 = 80\)、供給量: \(2\times40 - 30 = 50\)
- 需要80に対して供給は50しかない → 30単位の超過需要(品不足)
- 実際の取引量は少ないほう、つまり50で決まります
取引量が均衡70から50へ20減りました。この20単位分の取引で本来生まれるはずだった余剰が失われます。死荷重は、需要曲線と供給曲線に挟まれた三角形の面積です。数量50のとき需要側の評価額は \(120-50=70\)、供給側のコストは \((50+30)/2=40\)。よって
$$DWL = \frac{1}{2}\times(70-40)\times(70-50) = \frac{1}{2}\times 30\times 20 = 300$$
買い手にとっては「安く買えた分」の得もありますが、そもそも買えない人が出るのが上限価格の代償です。家賃規制で住宅の供給が細る、という現実の議論はこの図式で説明されます。
ケース② 下限価格(最低賃金型)— 売れ残りを生む
今度は「価格は60以上」という下限価格(均衡50より高いので実効的)。
- 需要量: \(120-60 = 60\)、供給量: \(2\times60-30 = 90\)
- 供給90に対し需要は60 → 30単位の超過供給(売れ残り)。労働市場なら失業に相当します
- 取引量は60。均衡70から10減少
$$DWL = \frac{1}{2}\times(60-45)\times(70-60) = \frac{1}{2}\times 15 \times 10 = 75$$
(数量60のとき供給側のコストは \((60+30)/2 = 45\))。売り手は高く売れるものの、売れ残りが生じ、取引機会が失われます。
①介入後の取引量を求める(上限価格なら供給量、下限価格なら需要量、課税なら税込みの均衡量)→ ②その数量における「需要曲線の高さ」と「供給曲線の高さ」の差を求める → ③その差 × 数量の減少分 × 1/2。課税でも規制でも輸入制限でも、この3ステップで解けます。図を描けば自動的に見えます。
試験ではこう問われる
実試験では「需要・供給関数を与え、①均衡 ②CS・PS・総余剰 ③政策後の各値 ④死荷重」を順に計算させる大問形式が定番です。政策のバリエーションは、課税(税の帰着)、補助金、上限・下限価格、そして貿易の開放(比較優位)。道具は1つ、シナリオが変わるだけです。補助金の場合は総余剰が増えそうに見えて、政府支出が余剰の増加を上回るため、やはり死荷重が発生する点に注意してください。
学習への落とし込み
余剰分析は経済 第4章 市場の均衡と政策で体系的に扱います。図を描く→面積を出す、という手順が体に入れば、経済の計算大問はほぼ制圧できます。類題トレーニングで反復してください。明日は投資理論の「トービンの分離定理」です。
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📚 参考文献・参考リンク
- 伊藤元重『入門経済学』第4版、日本評論社
- 当サイト類題データベース(2016〜2025年度・753問)の集計