棚卸資産の評価方法 — 先入先出法・平均法・売価還元法
📅 2026年9月30日 公開
同じ商品なのに、原価がいくつもある
同じ商品を、1個100円で10個、その後120円で10個仕入れました。15個売れたとき、売上原価はいくらでしょうか。100円のものから売れたのか、120円のものから売れたのか——物理的にはどれが売れたか分からないので、会計上のルールで決めるしかありません。それが棚卸資産の評価方法です。
過去問10年分析によれば、棚卸資産は10年で9年出題されている頻出領域。計算方法の使い分けは確実に押さえましょう。
共通の設定で4方法を比較する
以下のデータで、各方法の売上原価と期末棚卸高を計算します。
| 日付 | 取引 | 数量 | 単価 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 期首 | 繰越 | 10個 | 100円 | 1,000円 |
| 5月 | 仕入 | 10個 | 120円 | 1,200円 |
| 8月 | 売上 | 15個 | — | — |
| 10月 | 仕入 | 10個 | 140円 | 1,400円 |
販売可能数量30個、売上15個、期末棚卸数量15個です。
① 先入先出法(FIFO)
先に仕入れたものから先に払い出したと仮定します。
- 売上原価: 期首10個×100 + 5月分5個×120 = 1,000 + 600 = 1,600円
- 期末棚卸高: 5月分の残り5個×120 + 10月分10個×140 = 600 + 1,400 = 2,000円
期末在庫が直近の仕入価格に近くなるのが特徴です。物価上昇局面では期末在庫が高めに評価され、売上原価は低め=利益は大きめに出ます。
② 総平均法
期間全体の平均単価を1つ計算して使います。
$$\text{平均単価} = \frac{1{,}000 + 1{,}200 + 1{,}400}{30} = \frac{3{,}600}{30} = 120\ \text{円}$$
- 売上原価: 15個×120 = 1,800円
- 期末棚卸高: 15個×120 = 1,800円
計算が簡単ですが、期末にならないと単価が確定しないのが難点です。
③ 移動平均法
仕入のたびに平均単価を計算し直します。
- 5月の仕入直後: \((1{,}000 + 1{,}200) \div 20 = 110\) 円
- 売上原価: 15個×110 = 1,650円
- 売却後の在庫: 5個×110 = 550円。10月の仕入後: \((550 + 1{,}400) \div 15 = 130\) 円
- 期末棚卸高: 15個×130 = 1,950円
常に最新の平均単価が分かる(=払出のつど原価が確定する)のが利点です。
比較まとめ
| 方法 | 売上原価 | 期末棚卸高 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 先入先出法 | 1,600円 | 2,000円 | 3,600円 |
| 総平均法 | 1,800円 | 1,800円 | 3,600円 |
| 移動平均法 | 1,650円 | 1,950円 | 3,600円 |
合計(販売可能額)は必ず一致し、その配分だけが変わります。方法の選択が利益の額を左右する——だからこそ継続性の原則が要求されるのです。
④ 売価還元法
取扱品種が極めて多い小売業などで使われる方法です。期末在庫の売価に原価率を掛けて原価を推定します。
$$\text{原価率} = \frac{\text{期首在庫原価} + \text{当期仕入原価}}{\text{期首在庫売価} + \text{当期仕入売価(値入等を調整)}}$$
$$\text{期末棚卸原価} = \text{期末在庫売価} \times \text{原価率}$$
個々の商品の原価を追跡せずに済むのが利点で、計算問題では原価率の算定式に何を含めるか(値上げ・値下げの扱い)が論点になります。
期末評価 — 収益性の低下による簿価切下げ
取得原価が計算できたら終わり、ではありません。棚卸資産の会計基準では、期末の正味売却価額が取得原価より下落している場合、正味売却価額まで簿価を切り下げ、差額を当期の費用(売上原価等)とすることが求められます。
これは保守主義の表れであり、「収益性が低下した投資は、その分だけ回収可能額まで落とす」という考え方です。切り下げ後の処理には、翌期に戻し入れる洗替法と、戻さない切放法があり、継続適用を条件にどちらも認められます。この2方式の区別は正誤問題の定番です。
・計算: 上記のような資料から売上原価・期末棚卸高を求める(方法を指定される)
・知識: 各方法の特徴、後入先出法が現行基準では認められていないこと、洗替法と切放法の違い、売価還元法が使える状況
数値計算は手順さえ覚えれば確実に得点できる分野です。類題トレーニングで各方法を1度ずつ計算しておきましょう。
学習への落とし込み
棚卸資産は会計 第7章 棚卸資産と売上原価で扱います。4方法を同じデータで計算し直すと、違いが体で分かります。明日は経済の「繰り返しゲーム」です。
📖 あわせて学ぶ(無料講義・動画)
📚 参考文献・参考リンク
- 企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」企業会計基準委員会
- 桜井久勝『財務会計講義』中央経済社
- 当サイト類題データベース(2016〜2025年度・753問)の集計